驚きの話


審神者でない職場は、基本的にカレンダー通りの勤務日程になる。言ってしまえば公的教育機関なので、土日祝祭日は休みである。完全週休二日制万歳である。
だがまあ、教育機関なので、行事によっては休日もしっかりと出ないと行けないわけで、まじ7連勤とかただでさえ体力無いのに勘弁してくれって話ではあるが、とりあえず私頑張った。
振替制度もしっかりしているので、土日出勤分は、平日に休みが入る。つまり。

「……あるじ?」
「やっほー鶴丸さん! 驚いた?」

別に私が今日、月曜の朝9時から本丸出勤していても、おかしくないのである。

「は……はは、こいつぁ驚いた! どうした主、今日は仕事じゃあ無かったのかい?」

当然今日9時にこちらに来ることを伝えては居なかったので(昨日の仕事で割と体力限界だった)、近侍の光忠のお迎えも無かった。洗濯か掃除でもしているのかなと、とりあえず出勤を伝えようと部屋から一歩踏み出したところで、ばったり会ったのが鶴丸さんだった。

「本当は昨日一昨日、いつもなら休みだったんだけど、お仕事が入って出なきゃいけなくてね。その分今日明日ってお休み貰ったから、朝から来ちゃいました」
「そうか……そうか、じゃあ、今日君に初めて会ったのは俺なんだな?」
「そうなりますねえ」

笑って答えると、がばりと閉じ込めるように抱きつかれる。わぷ、と変な声が出たが、まあ許して欲しい。

「はは、全く、こんな嬉しい驚きがあるなんて、いつも君を迎えている光忠が羨ましくて仕方が無いな!」
「むしろ今日は光忠さんに伝えなかったからこそ、鶴丸さんに会えたっていうのもあるんですけどねぇ」
「それでも、君を一番に迎えられるという嬉しさは、やはり格別だ」

ぐりぐり、というかすりすりというか。まるで自分の匂いをすりつけるように肌を触れ合わせてくる鶴丸さんが少し苦しい。そろそろ服に埋もれて呼吸が難しい。とんとんと背中を軽く叩けば、ああ、と気づいたように離れてくれた。

「せっかくだ、俺に会ったついでに今日は1日、俺を近侍にしてみないか、主?」
「とっても魅力的な提案、嬉しいんですけど、光忠さんに要相談ですかねえ」
「……ったく、生真面目が過ぎるのも考え物だぜ、主? もっと気楽に行かないか?」

鶴丸さんが不機嫌そうに言うので私は苦笑するしか無い。こればかりは分かっていても変えづらい、性分のようなものだ。

「でもきっと、光忠さんは了承してくれますね。そのためにも、早く光忠さん探しに行きましょう、鶴丸さん?」
「……ああ、そうだな」

するり、私の手を包む手は、大きくて仄かに熱を持っている。彼と過ごす1日に思いを馳せながら、私は一歩を踏み出した。
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