理由の追及



「あー、今日も、留守番かぁ」

定期的に食事は出される、まあ、それ以外にも、最低限は動ける。しかし逆に、それ以外は全くと言って良いほど、動けないのだ。
今日の夜は何戦なんだろう。えーと、最初が晴れで、つぎが雷でしょ、それから……えっと。



42nd.理由の追及



壮大にガラスの割れる音がした。ドアは木製、壁がガラス製だとか、そんなわけ無い。
てことは、この音の音源は、窓。
びゅうびゅうと吹き込む風の、その方向を見てみれば、そこに居たのは、見慣れた友人の姿だった。

「──なまえ!」

「ゆうこ……!?」

綺麗な肌に、いくつもの傷跡が伺える。頬にも腕にも足にも、傷だらけで見ているこっちが痛い。

「ちょ、どうしたのその傷……!」

「気にしないの!」

「気になるってば……!」

っていうか、なんでここにいるの、そう問えば、思いっきり不審な顔をされた。ハァ?って言う顔だ。

「──そんなの、そんなのあんたを助けに来たに決まってんでしょう、なまえ!」

助けに、来てくれたのか、ゆうこは。


「……なまえ?」

大丈夫、と尋ねられる。そんなに生気のない顔でもしていただろうか。大丈夫だよ、と答えるが、嘘、と返された。
どう答えろと。

「なまえ……ねえ、もしかして、助けに来ない方が良かった?」

「え……?」

そんな顔してる、ゆうこは、そういった。
まるで、ここで死んでも、それでも良いみたいな、そんな顔してる。

「でもね!」

がしりと肩をつかまれて、ゆうことの顔が近くなる。しっかりと、色素の薄い綺麗な目と視線がかち合う。

「私は、なまえが死んだら嫌だよ。絶対泣くよ!だから……絶対死なせてなんかやらないんだからね……!」

どこまでも前を向く友人が、眩しくて羨ましかった。
もしかしたら私は、どこかで、死ねば向こうの世界に帰れるとでも思っていたのかもしれない。
そんな保証もないのに。
ただ、力のない現状から逃げる言い訳ばかり考えて。

骸さんに捕まって、リング争奪戦にも関与しなくちゃいけない現状に来ておいて、それでもまだ逃げることばかり。
命が惜しいだなんて、それも言い訳。

傍観者で居たい。
そんな願望、ツナと知り合ってから、あり得るはずもない妄想にしか過ぎなかった。

「……ゆうこは、私が死んだら泣く?」

「当たり前でしょうがー!」

「……リボーンとかは、泣いてくれるかな」

「…………それはちょっと難しいかもしれないね……」

「骸さんは、どうだろう」

「絶対泣く。泣くよ、あの人は」



「…………ツナだったら、どうかなぁ」


「……泣くよ、ツナ、涙もろいもん」

「そう……かな」

「そうだよ」

「……そっか……」


もうごまかせないところまで、私は物語の世界になじみすぎていた。
気づかないふりがしたかった。
私には出来ないと、予防線を張ることに必死すぎた。

現実から逃げることだって、時には大事かもしれない。
でも、私はツナから逃げたくないと、そう思った。
惚れた弱みだと、言ってしまえばそれまでだ。
でも、理由なんて、案外そんな簡単なものでもいいのかもしれない。

私は今、ツナの傍にいたい。ゆうこを泣かせたくない。みんなと馬鹿やって騒ぎたい。
私がここで生きていく理由は、そんなちっぽけなもので十分だ。
誰かの為に死にたい、そんな大仰な理由で日常を謳歌している人間なんて、そうそういるものか。



「……帰ろう、なまえ」

「うん」

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