不本意の邂逅


誰が望んだ、ヴァリアーに捕まることを。
全くもって望んでいないと言うのに、世界はどうもそれを許しはしないらしい。

「何とか言ったらどうだぁ、小娘ぇ!」

ついでに言えば、この状況で何か言葉を発することができたのなら、それは奇跡に近いと言えよう。


39th.不本意の邂逅


蛍光灯が、不穏な銀色をぎらつかせる。何か言え、とただ繰り返すそのヴァリアー幹部、もといスクアーロだけれど、そんなに殺気を出された状態で、一女子中学生が何か喋れるとは到底思えない。まずはその殺気を抑えてほしい。

「もう、そんなに殺す気で問い詰めちゃあ、答えられるものも答えられないわ」

「うるせぇ、てめぇは黙ってろ」

ルッスーリアが諌めてくれるも、それをはねのけるスクアーロ。マジで勘弁して。

「いいかぁ、俺が聞きてぇのは一つ。あの場に居合わせたことに関してだ。……あのカスどもと、無関係だとか言い張るわけ、ねぇよなぁ?」

言いたい。凄く言い張りたい。
ていうか、逃げたい。何で捕まったし。
これはもう、完全にトラブル吸引体質と化したのではないだろうか。ゆうこの体質が写った……?勘弁してくれ。

「んもう、いい加減にしなさい、スクアーロ!こんな調子じゃ、聞き出せるまでにどれだけ時間がかかると思ってるの!」

「そうだよ、時間は無限にあるわけじゃないんだ。それくらい考えたらどうだい?スクアーロ」

「マジで、お前がやってたら日を跨ぐんじゃね?」

……思ったけど、ヴァリアーメンバー、スクアーロに対して容赦なくね?
……予想外の、展開。

「というわけで、私にまかせてちょうだい!」

スクアーロに代わって、名乗り出たのはルッスーリア。
……うん、刀が無いだけ、まだましかな。

「まず、あなたの名前を聞いてもいいかしら?」

さて、ここからが慎重になるべきところだ。人が代わったとはいえ、相手はヴァリアー。どれだけ情報を取られるか解らない。……とられても、いい情報、は。

「みょうじ、なまえ」

「そう、なまえちゃんね」

名前か、と、思い、告げる。これなら名乗っても、私はリング保持者ではないから大丈夫、だろう。
しかし、思ったより掠れた声が出た。随分と黙っていたからか。
それに……なんなのだろう、スクアーロと相対するよりも強烈なプレッシャーにも似た、これは。

「じゃあ、二つ目。あの場所にいたのは、偶然かしら?」

「はい……」

そう、それに答えるならば、偶然だ。意図してあの道を選んだわけじゃない。

「あの場所にいながら、動かなかったのは、何でかしら?」

「それは……」

動いたら、殺されそうだったから。
素直に、そう答えた。

「そう」

ルッスーリアはそれだけ答える。それ以上でも、それ以下でもなかった。

「じゃあ、もう一個聞こうかしら」

……てことは、だ。これが最終質問、と取っていいのだろう。
なら、この後に来るのは、スクアーロがさんざん聞いていたあれ、だ。

「あなたと、あそこにいた彼ら……知り合い、よね?」

疑問符調の、確定質問。ルッスーリアは、確実に、私と彼らに関係性を見出している。
というか、そうでなければ、わざわざ小娘一人を捕まえたりしない、か。

大体そうだ、私があそこで、動かなかった理由を答えた時点で、関係性を疑われるのは決定だった。
一般人なら、逃げてる。近付く前に逃げてる。
ああ、あの場で動かなかったことが、最大のミスだ。
……ちくしょう。

「……は、い」

誘導尋問。中学生は所詮、暗殺を生業としている人たちに敵うわけがない。
もしも無事に解放されたら、リボーンからの説教コース間違いなしだ。
答え、出たわよ、と言うルッスーリアに呼ばれるようにして、他の幹部たちが集まってきた。

「案外素直に口割ったじゃん?」

「抵抗するなんて、ガキにとってもともと身の程をわきまえない行為だった、ってことだよ」

「……俺とあいつのどこが違うって言うんだ……」

「顔じゃね?」

……本当、ヴァリアーの皆さんは容赦がない。ついでにスクアーロ、怖いんだ、本当に、察してくれ。

「まあ、今日はこれだけ聞き出せただけでも十分ね、他は明日にしましょう」

……え、明日って何、ちょっと、明日って何ですか!
なんて、聞ける訳もなく。
ああそうだよな、この人たちがそう簡単に私を解放するわけがない。
あーあ、と、縄で縛られて硬直しかけた身体全体を、軽く落とした。

それとほぼ同時に、この部屋のドアが開く音がする。救世主!?と期待するも、ただのたらこ唇が出てきただけだった。ちくしょう。

「おい、そろそろ時間になるぞ」

「あらー?もうそんな時間?」

レヴィに応えるルッスーリア、からして、もうすぐ一試合目、ということか。
……え、マジでもうそんな時間なんですか。

「じゃあ、大人しくしててね、なまえちゃん」

「まあ、監視カメラもあることだし、逃げても解るんだけど」

「ししっ、つーか、こんだけ縛ってんのに、逃げられるわけねーじゃん?」

好き勝手言いながら、部屋から出ていくヴァリアーの皆さん。
一人ぽつーんと、この部屋に残される私。



あの……ご飯は?
お風呂、入りたいんですけど。
ていうか、寝る時もこのままですか……?

えええええこれってあの、えー、骸さんに捕まった時よりも対応酷いんですけど…なんだよう、金持ちになるにつれて人質の扱いが酷くなるって言うのかよ……そもそも、私は彼らに対する人質……なんだろうか。


解らなくなってきた。
とりあえず、十月の深夜に、暖房入れてない高層ビルの上層階は、辛いものがあると思います。





……うん。ちょっと冷静になって考えてみよう。
誰も居なくなった今が、チャンスかもしれない。

私は、ヴァリアーとみんなの対面の場に、こそこそ隠れてたから、捕まった。
それは、どうやらザンザスの命令であるらしい。
直接ボスに手を下されないあたり、骸さんの時よりましと思おう。
……あれ、独立暗殺部隊と霧の守護者って、どっちが危ない?

で、彼らが私を捕まえた目的は、依然明確ではない。
彼らは、私とツナたちとの関係性を疑っている。
それは、ばれた。
何処までの関係かは、まだばれていない。

考えるならば、私、もしくはゆうこがこの世界の存在ではないと、それに気づいて、誘拐しようとしたパターンだ。
何かしら、特殊な能力を持っているかもしれない、それで狙われた可能性も、無いとは言い切れない。

まあそうであった場合、人違いということになるんだけど。



うーん、とにかく、解らないことだらけ。
当面考えるべきは、私の身の回りについて、ってことか。

あああああどうすればいいのかなあ。

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