パズルゲーム


お昼ごはんを食べようと屋上に行ったあの日のこと。
平和っていいものだった(過去形)と思いました。

「……どーゆー、ことさ」

「ああ、なまえ!」

「うわ気持ち悪いです雲雀さん!」

「違うって!俺だってばあ!」

「俺々詐欺なら間に合ってますが」

「間に合ってるって何ー!?」




29th.パズルゲーム



まあ、状況がわからない訳ではない。
さっきの会話からするに、雲雀さんの体にツナの精神が入ってしまったんだろう。
……雲雀さんの声と顔でツナの突っ込みというのは、完全に何かが崩壊してしまう気がするんだけれど。

「で、他には?」

「あ、俺がゆうこの体に入っちまったのなー」

「よりによって野球馬鹿の体だと……!?どうせなら10代目が……いやしかし、ゆうこも捨てがた……はっ、俺は今、10代目とゆうこを……!?」

「山本武……後で咬み殺す」

「うっわあ、ツナの体だー!ひゃっほーい!死ぬ気状態とか、また何か違うのかなー?」



「……これは絵で見せるべきシチュエーションよね?」

「ぶっちゃけたら駄目!そーゆーこと言っちゃ駄目だからねなまえ!」

でも、文字でこの状態を伝えるのには何となく限界がある気がするのだ。私の貧相なボキャブラリーではそこまで状況を克明に映し出すことはできない。誰かいーちゃん連れてきて。

「えーっとつまり、俺がヒバリさんの体に入ってて、獄寺君が山本の体に入ってて、山本がゆうこちゃんの体に入ってて、雲雀さんが獄寺君の体に入ってて、ゆうこちゃんが俺の体に入ってる、ってことだよね」

「うん、ツナ」

「何?なまえ」

「それはよくわかる言い方だけど、もうちょっと言い方を変えようか」

「え?」

その言い方だと、なんとなくいかがわしく聞こえてしまう人間も、この世の中には居るってことだよ。腐った脳みそさーせん!解らないままでいたあの日に戻りたい。

「?」

ツナが何だかわけのわからないという顔をしているので、まあ、よしとしよう。ツナはそのまま純真でいてほしい。

「原因はあえて追究しないとして──問題は、どうやって元に戻るかよね」

「だねえ」

私と雲雀さん(見かけ)、が屋上入り口の扉で呑気に会話をしている。雲雀さんには、いつものあの鋭さや殺気を見ることができない。貴重だ。……もし私がデジカメを持っていたら即行で撮っているというのに!
で、ぽやぽやしたツナに向かって、眉間にしわを寄せたツンデレ山本と、何かいつも以上にほのぼのしているゆうこ、目つきがいつも以上に悪い獄寺が話しかけている。

「……総受け?」

「──ちょっと待って、なまえ今何て言ったの?」

「ああ、気にしなくていいよ?」

「……その笑顔が怖いんだけど、なまえ」

「そう?」

「…………」

まあ、冗談はこれくらいにしておくとして。構図的には何ら問題が無いんだけど、その構図を形作っている人間に多大なる問題がある。
このまま午後の授業が始まったら、私はとんでもない状況を見てしまう気がするのだ。
もし、こいつらが中身はそのままで授業を受けようとすれば、A組に雲雀さんが出没することになるのだ。それはさすがにほかのクラスメイトに対して申し訳ない(私が申し訳ないと思う必要性は決してないんだろうけれど)。
で、もし外見で授業を受けさせるとすれば、獄寺がいつも以上の不良っぷりを発揮し、ツナがなぜか秀才になり(ゆうこだって一応は高校生なのだ、中学レベルはそれなりにいい成績を残している)、山本の天然さの代わりにふてぶてしさが全面的に表に出るという、──考えるだけである種の地獄絵図だ。つーか獄寺と山本がカオスキャラになる。
で、とちらりと私の横を見る。

「?どうしたのなまえ?」

応接室に、ほんわかした雲雀さん。


────私の精神衛生上とてもよろしくないと思われます……!


これは何としても元に戻さなければ……!
犯人は誰だ?なんて考えるまでも無いような気がするんだけど。きっとおそらくたぶん確実にリボーンだ。

「そのとおりだぞ、なまえ。やけに修飾詞が多かったな」

「出た元凶!」

「何か悪霊が出たみたいな言い方だね」

「悪霊よりたち悪いでしょうがこいつは」

「ほお。俺にそんな口きいていいのか。こいつら元に戻らなくなるぞ」

「ツナが戻るなら他はいっそそのままでもいいんじゃないかな?」

「ちょっ、なまえ何言ってんのー!?」

「冗談だってば」

「……本当、なまえの言葉は冗談に聞こえないんだから……!」

わりと本心からの言葉だったけれど、ツナにどん引かれるのを避けるために、あえて冗談だと誤魔化しておいた。

「で、どうすればこいつらは元に戻るのかな?」

「簡単だぞ。思い人とキスすりゃ戻るぞ」

「ええー!?」

リボーンの言葉にツナが叫ぶ。それを見ていた他の4人も、動きが止まる。リボーンだけが、その空間で不敵に笑っていた。












「……嘘でしょうが、それ」

私が一つ、ため息をついた。

「……どーしてそう思うんだ?」

「まず第一に、思い人ってのがシャッフルの対象に入っている場合、それは中身的な意味での思い人か、それとも外見的な意味での思い人か、という点にぶつかる」

ぴ、っと右手人差し指を立てて、仮説を立ててみる。それに、ツナ(外見雲雀)がどういうこと……?と聞いてきた。

「つまり、ゆうこのことを好きな人間は、ゆうこの外見をした人間にキスをすればいいのか、それとも、中身がゆうこであるツナにキスをすればいいのか、という問題が出るってこと」

「ああ、成程……」

「第二に、」

右手中指も立てて、二を表した。

「第二に、それが正解条件である場合、矛盾点が出てくる」

これには、ゆうこ(外見ツナ)が疑問を投げかけてきた。

「まあ、わかりやすく言うために仮説を立てるけど、もしこの中に私を好きな人が居て、私とキスをしたとすれば、精神が入れ替わってた人は元に戻るけど、体を取り戻した時、そこから出て行った精神は、何処に行くのかって話になる」

「ああ……!」

「だって、入れ替わってる状態で思い人とキスをしなきゃいけないんでしょ、キスする前にその体の持ち主がその条件をクリアしたら、そこに入ってた精神はどうなるの、って話ね」

「なるほど、よく考えてるじゃねえか」

リボーンに言われて、最初よりも大きなため息が出た。

「リボーンが言った元通り条件ってのは、前提的に両想いの人間二人が入れ替わってる場合にのみ、ご都合主義よろしく適用されるんだからね」

「まったくだな」

リボーンがもっと不敵に笑った。それを見て、皆安堵したような少し残念そうな顔をした。……ふん、解りやすい奴らめ。
しかし、その自分の思い人がそう簡単にキスを許すほど自分のことを好きでいてくれると、そういう自信があるんだろうか。……うん、こいつらに限ってはそれがありそうだから怖いわ。

「で、本当の条件って何なの?」

「特にねーぞ」

「……は?」

ひょうひょうと、リボーン様はのたまった。
つまりは、自然に元に戻ると?

「ああ。ま、昼休みが終わるころには元に戻ってんだろ、よかったなお前ら、醜態をさらさなくて」

醜態て。言うに事欠いて醜態と言うかこいつは。

「じゃあな。俺は帰るぞ。ちゃおちゃお!」

リボーンがびっくりな身軽さで屋上から退場なされた。本当、何処に消えてるんだか。

「──なんだ、ちゃんと戻るのかー」

気が抜けたのか、山本(外見ゆうこ)がぺたりと座り込んだ。……元が男だからあんまり気にしてないのかもしれないけど、その体制だと下着見えるよって忠告した方がいいんだろうか。

「ふん、急に気の抜けたような……こと言いやがっ……て」

「隼人大丈夫ー?」

「だっ、大丈夫で……!っ、だいじょうぶ、だぜ」

(獄寺のやつ、外見がゆうことツナだから、中身が違うって解ってても態度が混乱してる……。なんだろ、見てて面白いわあ……)

(うっわ、なまえ、何かえげつない楽しみしてる顔だー……)





隣でツナ(外見雲雀さん)がビビった顔をしてたけど、まあ気にしないでおこうと思う。
皆が元に戻るまで、このちぐはぐな状況を鑑賞することにしようと思った。

こんな面白い状況、この先見れるはずないからね!


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