君と僕
抑えられる感情だったら、苦労なんてしないのにね。
28th.君と僕
朝、と言っても、それほど早い時間ではなく、それこそクラスのほとんどのメンバーが集まり始めてきたころ。
私は廊下を悠々と歩いていた。向かうは、2−A。ツナのクラスだ。
昨日貸していたままの、理科のノート。貸していたというか、私がただ忘れて行ったというか。
まあともかく、そんな感じで私はツナのクラスに向かっていた。あのクラスに行けば、ゆうこなんかに絡まれるんだろうなということを薄々感づきながらも、けれどノートには代えられない。何より、私とツナが会えるんだ、しかもこの学校で、早朝から。
……多少の犠牲(自分の精神的な意味で)は我慢しようじゃありませんか……!
ぺったぺったと、上履きが廊下をこする音、それに合わせて動く足。気付けばそこは、2年A組。前の扉から入るのは勇気がいるので、後ろ側の扉の方に行く。朝だからか、扉は開けっぱなしにされていた。教室をのぞいてツナを探す。少し、窓際のほうに、ツナは居た。ツナも、私がノートを取りに来ると知っていたからか、すぐに私に気づいてくれた。獄寺や山本、ゆうこに断りを入れて、こちらに来てくれる。
「あ、なまえだー!」
ひゃほう!と何だかわけのわからない言葉を叫びつつ、ゆうこがこっちにやってくる。
「めっずらしいねー!なまえが朝からA組に来るとか!もー、朝喋れなくて寂しいんだからね!今日と言わず明日からも来ない?」
朝から風紀副委員長としての仕事にかかりっきりなこの親友は、どうやら私と話す時間を楽しみにしてくれてるらしい。
……けどね?
「それで獄寺とか山本とかと話してる場所見られたら、私の命が無いし」
「え?私いつも話してるけど、全然大丈夫だよ?」
それはお前が男女共にモテキャラだからだよ!と叫びたいのを抑えて、まあ、取り立てて朝から話すことないしね、と言っておく。
ぶーたれたゆうこに苦笑しているのは、私だけではなく、ツナもだったようだ。
「あ、なまえちゃん、これ、ありがとう。昨日はすごく助かったよ」
「あ、そう?ならよかった」
ツナは、私が帰った後もこのノートを有効活用してくれたらしい。それだけ使ってもらえれば、このノートもさぞかし喜ぶだろう。私は小さく笑った。
「うわ、ゆうこちゃんの友達?」
「へえ、ゆうこちゃん、あんな友達もいたんだ?」
「いつも山本とか獄寺とか、沢田とかとしか話してないしなー」
「たまに笹川とか黒川とも話してるよな」
「あ、あと雲雀さん」
「へえ、あんな友達もいたんだあ」
「見るからにふつーそうだけどな」
「まあ、普段話してる相手が、普通じゃない風に見えるしね」
クラスの片隅、何となく、聞きたくないような会話が聞こえる。
なまえちゃんが、ゆうこちゃんの友達だって、俺のクラスの人にも知れて、それって良いことなのか、それとも、だなんて思ってしまう。
なまえちゃんに友達が増えるのはいいことだ。でも、それが何となく許せないような気もする。
これって、やっぱりあからさまな嫉妬かな、なんて思ったりして。
「……あ、そろそろHR始まるね」
「え、あー!ほんとだ!なまえ、もう行っちゃうの?」
「うん、まあ、遅刻したくないし」
「あー……。うー、でも寂しいなー」
解りやすいくらいに落ち込むゆうこちゃんを見て、俺となまえは顔を見合わせる。
……何となく、お互いの考えてることがわかった。
「じゃあ、ゆうこちゃん」
「今日は、一緒に帰ろうか」
委員会、終わるまで待ってるから。そう言えば、さっきまでの落ち込みようは何処へ行ったのかと、疑うくらいの笑顔。
「やーったー!」
それを見て、なまえと二人、笑った。
シンクロしている考えが、何となく嬉しかった、だなんて。