答えを探して
お忘れの人も多いのではなかろうか、黒曜中、骸たちとの戦いは、新学期が始まってから行われたのだということを。
つまり、
「ツナ、お前授業について行けるようになるまで、俺がねっちょり指導するからな」
「えええええ!?」
27th.答えを探して
「せめてもの情けだ、なまえを呼んでやったぞ」
私が部屋に入った途端、リボーンがそう言った。どういうこと?と尋ねれば、今からこいつの勉強の面倒をみるんだと返ってきた。
ああ、それで私か。ノート持参とか言うから、何かと思ったら、そういうこと。
「つーか、勉強会なら皆でやればいいじゃんか、獄寺君とか山本とかも呼んで!」
「そうすれば、必然的にゆうこが来て、勉強会どころじゃなくなると思うんだけどね?」
「……ああ、そっか」
ツナの叫びに、私が突っ込みを入れてみると、すっと大人しくなった。きっと、確実に起きるであろう惨劇(消して大げさではないと自負している)を想像したんだろう。最終的には、雲雀さんが来て、どかん、だ。ああ、容易に想像できてしまう。
「でも、リボーンが居るなら、私はいらないと思うんだけど?」
「俺一人じゃ疲れるからな、こいつに教えるのは」
「……(我儘だ)」
あえて心の中で突っ込みを入れてみる。読まれてるだろうなとわかってはいても、それでも突っ込みたい場所だった。
「それに、お前が教えてやった方が、ツナも呑み込みが早いだろ」
「ちょっ、何言ってるんだよリボーン!」
「……そうでもないと思うけどね」
所詮高校生、中学生の学習はクリアしているといっても、それイコール教え方がうまいというわけじゃない。
「ま、俺の休息のためにも頑張ってくれ、なまえ」
「お前結局休みたいだけだろ!」
ツナの突っ込みもなんのそのでかわして、リボーンは部屋を出て行った。コーヒー淹れてくる、だそうだ。
「……あーもう、あいつ……!」
「まあまあ。そういきり立ってもリボーンは軽く受け流すって。それよりもツナ、ほら、さっさと勉強済ませよう?」
いつまでもリボーンにおちょくられたくないでしょ、そう言えば、ツナは一つ、ため息をついた。
「で、そこの式を右に移行するでしょ、そうしたら、」
「あ、ほんとだ!凄い、簡単にできるね!」
「でしょ?」
ツナは出来ない子じゃないんだ。ただ、やろうとしないだけで、やっても駄目だという先入観が自己暗示に変わってしまっているタイプなだけで。
「じゃあ、次は自分でやってみて」
「ええ!?俺一人で?」
「大丈夫。急に難しくなんてなってないから。数字が変わっただけだよ。ね、落ち着いて。教科書も見ていいから」
「う、うん……!」
教科書と問題を交互に見ながら、少しずつシャーペンを動かしていくツナを見る。時間の経過とともに、書かれる式は増えて、最終的に、
「うん、大丈夫!正解だよ」
「ホント!?」
「嘘言わないって」
「やったー!」
問題ひとつ、それに対して満面の笑みを浮かべるツナは、とてもかわいい。教えた甲斐があるというものだ。
「さ、次に行こうか」
「うん!」
最初のやる気のなさは何処に行ったのかと思うくらい、ツナは生き生きとしている。出来るってことは、楽しいんだって、そう解ったのかもしれない。
「順調なとこ悪いけどな、なまえ、そろそろ帰った方がいいんじゃないのか?もう随分暗いぞ」
「え、嘘まじで!?」
急に湧いて出たリボーンの言葉に窓の外を見れば、ああ、確かに一番星が綺麗に輝いている。もうこんな時間になっていたのか。
「うわ!ご、ごめんねなまえ!こんな時間まで……!」
「え、ううん、大丈夫だよ。私も気付いてなかったしね」
謝るツナに、そう気にしなくてもいいよと言っておいた。さて、帰るか、と、持ってきた荷物を鞄に入れる。
「ツナ、なまえを送ってけよ」
「言われなくてもそうするって!」
どきっとした。一瞬、片づけをする手が止まった。言われなくても、って……嬉しいことを、そうさらりと言ってくれる。
「じゃあ、送ってくるね」
「ああ。送り狼になるなよ」
「ならないよ!」
……なんかもう、リボーンって、私で遊んでいるんじゃないだろうかとすら思えるくらいの言葉を投げかけてくれるんだけど。玄関を出るだけの一言二言のやり取りに、精神力がどっと削られた気がした。
「本当に、ごめんね、今日は……!」
「え、何でツナが謝るの?」
「だって……俺のせいで、なまえの一日潰したし、」
その言葉に、私は困ったように笑う。だって、そんなこと、
「でも、私は一日ツナと一緒に居れて、楽しかったけどなー」
「ええ!?た、楽し……!?」
だってそれは事実なのだ。好きな人と一日一緒に居れて、これで楽しくない訳がない。
「次は一緒に宿題でもしようか」
「……う、うん。そう、だね!」
そう言葉を交わしている間に、私の家に着く。辺りは真っ暗で、むしろツナの帰りを心配してしまうほどだ。
「ツナ、真っ暗だけど、大丈夫?」
「え、うん、全然平気だよ!」
「そう……でも、一応、気をつけてね」
「うん。ありがとう」
玄関先でツナと別れ、家に入った。夕飯は、朝の残りを適当に温めて食べる。
それからお風呂に入って、最近肌寒くなったなあとか、季節の移り変わりを感じた。
お風呂からあがって、髪を乾かしながらケータイをいじる。メールが何通か来ていた。一通はリボーンから。俺からの遅い退院プレゼントだと思え、と書いてあった。……素直に感謝しようじゃないか。
それから、あの逆ハー娘からも来ていた。今日さあ、恭弥とお仕事してたら、いつの間にか恭弥と隼人と武が戦ってたんだよ、すごくね!?と書いてあった。凄いのはお前のその鈍さだばかやろう。
そんでもって、
「あ、ツナから来てる……」
内容は、今日の勉強会についてだった。
"今日は本当にありがとう、助かったよ!
それで、えーっと、さっき気づいたんだけど、なまえ、
俺の家に理科のノート、忘れてたんだ。
明日、直接言えば良かったのかもしれないけど、
でも、今日無かったら困るかも、と、思って。
一応、連絡させてもらったんだ。"
その文面を見て、慌ててバッグをあさる。確かに、理科のノートが無い。明日の時間割を確認すれば、理科の授業はきちんと入っている。しかも一時間目だ。
明日、授業前に取りに行くか、と思い、ツナにその旨をメールすることにした。
"こちらこそ、今日はお邪魔しました。
助かったといってもらえたら何よりだよ。
えっと、ノートのことだけど、私、明日授業あるから、
明日の朝のHRの前に取りに行くね。
明日はちょっと早めに学校に来てもらっていいかな?"
"うん、わかった!
じゃあ、HRが始まる10分くらい前でいいかな?"
"大丈夫!
じゃあ、連絡ありがとう。
おやすみ!"
"うん、おやすみ、また明日ね!"
ただの事務メールだというのに、それでもツナとのメールという事実が何となくうれしくて、一人顔をほころばせた。
明日、会いに行くのが楽しみだ。
……そこに、獄寺や山本やゆうこが居るという事実は、知っててスルーすることにした。