それは序章に過ぎなくて




私はリボーンの言ったとおり、あれからすぐに退院出来た。まぁ、気絶してただけだったしね……。
退院してから、本調子に戻すために更に2、3日自宅謹慎。ただの引きこもりとか言った奴、後で少し話そうか。
それからツナのお見舞いに行った。

病室はリボーンに聞いていたので、というか聞かされていたので、そこまでは難なく辿り着ける。廊下と病室を隔てる仕切り戸をそっと横にずらせば、

「あ、なまえっ、ちゃん……!」

「人の名前吃ってんじゃねーよダメツナが」

「痛ぁっ!ちょ、蹴ること無いだろリボーン!」

そこにはスパルタ式教育の実行風景がありました。



20th.それは序章に過ぎなくて



「……相変わらずだね……」

「うぅっ、これ、相変わらずだって思われてるんだ……」

「ん、何か言った?ツナ」

「何も言ってねーぞ」

「何でお前が答えてるんだよ!」

ベッドで上半身を起こしていたツナも、リボーンに蹴りを入れられて蹲っている。何かを呟いたみたいだったけど、生憎と私には聞こえなかった。

「で?見舞い品は持ってきたんだろーな、なまえ」

「それ、ねだるもんじゃ無いよね」

零れるため息を隠すことはしないまま、持ってきた見舞い品を取り出す。一応、怪我人ということも考慮してフルーツの詰め合せにしておいた。

「はい、これ。ツナのお見舞い品」

「ま、中々良い物だな」

「だから何でお前が答えるんだよ!」

ツナが零すため息に、リボーンがニヒルに笑う。入院しても大変だなぁ。

「これからママン達も来るらしいからな。ランボから見舞い品搾り取るぞ、ツナ」

「相変わらずランボに容赦無いな!」

「へぇ、ランボ達も来るんだ」

私がそう言い終わる前、語尾にかぶせてドアが開く音が聞こえた。

「ガハハーッ、ランボさんの登場だもんね!」

「ツッ君、大丈夫?」

「ツナ、リボーン、お見舞いに来たよ!……って、なまえも居たんだ?」

「私はおまけかゆうこ」

病室に入ってきたのは、ランボにイーピン、奈々さんに、ゆうこ。
ていうか、ゆうこも退院してたんだね、と言えば、真顔であれ位の怪我ならすぐ治るよ、と返された。お前どんな鍛え方してるんだ。

「でも、まぁ、ゆうこが無事でよかったよ」

「なまえもね」

ゆうことは久しぶりに会ったのに、やっぱりすぐ傍に居る感覚は変わらなくて、何だか笑ってしまった。

「じゃあ、私はフゥ太君とビアンキちゃんを見てくるから。ツッ君、ランボ君とイーピンちゃんのことよろしくね」

「あ、うん、分かった」

ゆうこと話しているうちに、奈々さんとツナも色々話していたみたいだ。奈々さんはこれからビアンキとフゥ太のところに行くのか……私も後で行こうかな。
奈々さんが素敵な笑顔で手を振って病室を出ていった。……息子が入院してるのにあんな風に笑顔を作ることができる人なんて、なかなか居ないと思う。それでも笑っていないと、ランボやイーピンが不安がるから、無理してでも笑っている。

強い人だ、奈々さんは。

「……なまえー?大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ?」

ぼおっとしていたのをゆうこに心配されるけれど、特に問題は無いので軽く返す。そうすればゆうこもならいいや、と言った。




「……それにしても、うぜーな、アホ牛」

ぽつり、ふいに小さく小さく呟かれたはずのリボーンの言葉、それは少し離れたところに居た私とゆうこにも聞こえていた。
声の出所に目を合わせる。隣でツナが青ざめていた。
黒曜石色の大きな瞳がきらめき、次の瞬間には彼の傍にあったプラスチックフォーク(ゆうこが持ってきた見舞い品のケーキの付属品)が消えていた。それの行き先は、ランボの頭。……リアルで見ると、マジで痛そうだ。

ランボが頭を抱えて蹲り、必死に声を押し殺そうとしているけれど、そこはやっぱり五歳児。痛みに耐えきれず、最後には泣き出した。

「っ………………、うわぁぁぁぁん!リボーンのバカァァァァァ!」

「ちょ、リボーンマジでランボ虐めるの止めろって!」

そしてお決まりの展開、10年バズーカ。発射口はランボに向いている。
10年後ランボ見れるかな、と呑気に考えていた私が目にしたもの、それは、見舞い品のリンゴがバズーカに直撃して発射口の向きがゆうこに変わった光景だった。
犯人は言わずもがなリボーンかな、と、瞬間遅れて状況を理解した脳が判断を下す。先に10年後ゆうこと対面か、どんな人になってるかな、やっぱり美人かな、

………… 思考は、そこで中断を余儀なくされた。

急に右手にかけられた負荷。身体は私の意志とは無関係に右に傾く。ぐらついた視線が真っ先に捕えたのはバズーカの発射口。

「なまえも道連れっ!」

開いた口が塞がらない、とは、こういう状況を指すのだろう、と身を以て知った。
視界がピンクの煙で埋まり、それが晴れれば虹色に輝く四次元空間的な場所。


「…………っふざけんなゆうこ ────っ!」

そこで初めて、私は現状というものを理解した。即ち、ゆうこに引っ張られてバズーカに巻き込まれた。
その時の私に、叫ぶ以外の行動選択肢があっただろうか。
きっと、無かった。


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