集合




「なまえに罪は、無いよ」
「……ほぅ?」
「俺の写真がケータイに入ってたのだって偶然だし、何より」
「何より、何です?」

「……仲間を信じられない人間に、なりたくないから」

無意識下でも、彼に仲間だと思われているのかと、それを感じて。



16th.集合



「……やれやれ。まさか君がそこまでなまえを信じているとは……僕の誤算ですね」
「……気安くなまえの名前を呼ぶな……!」

ツナの言葉を無視して、骸さんはロッドを手にし、六道のスキルの刻まれた瞳の数字を四へと変える。格闘スキル。鞭を持って走り、骸に迫ったツナは、瞬間後ボロボロになっていた。それをしたのは自分なのにもかかわらずわざとらしくツナに尋ねる骸さんに苛立ちを覚える。
ああ、私に戦う力があれば。

骸さんは昨日私に問い掛けたのと同じ言葉を、ツナに投げ掛けた。

「六道輪廻という言葉を、ご存じですか?」

それに答えたのはリボーン。……まだまだ解らないところだらけなのは、骸さんもリボーンも大差ない。
骸さんが薄く笑う。三叉槍を床につき立てれば、そこからひびが生まれ崩壊していく。幻覚だと解っているのに、知っているはずなのに、

「フゥ太!ビアンキさん!リボーン!ツナ!」

思わず手を伸ばす。伸ばした手は、骸さんに捕まれた。その拍子に私にもかかっていた幻覚が解かれる。そういえば、何で骸さんは私にまで幻覚をかけたんだろうか。

「…… いい加減自覚したらどうですか、あなたは、戦えないんです。大切だと思う人たちが目の前で消えていくのを、見ていることしか出来ない、無力な人間だ」

そうか、それを自覚させるためか。理由は解らないけど、骸さんは私を勧誘したがっている。最初こそボンゴレへのダメージを考えたものかと思ったけど、そうじゃないようだと薄々感じている。その真意はまだ読めないけれど。

「……そうやって、なまえを仲間にしようとしてるのか」

幻覚から復活したらしいツナが問い掛ける。骸は笑って、そうですよと返した。

「僕は、なまえが欲しいんです」



訳が、解らない。私を手に入れて何をしようっていうんだ。何で、そんなくだらないことのために戦う。


「……なまえ、絶対、助けるから」



ツナの言葉が、その真摯な眼差しが、あまりにも強くて目が逸らせなかった。私はただ、頷く。



……あ、そうだ一つ言わせてくれ。
……こんなの、私のジャンルじゃないだろ!





私をソファまで戻した骸さんは、再びツナと戦いを始める。毒蛇を召喚したところで雲雀さんと獄寺、ゆうこが入ってきたのを目にした。

「ゆうこ……!」
「なまえ!ごめんは言わない、助けるからっ!」

ごめんは言わない、それは、絶対に助けるというときのゆうこの常套句。過去を悔やまないためだ、とゆうこが言っていたのを前に聞いた。

「これはこれは外野がゾロゾロと……」

面倒臭そうに言う骸さんだけど、その表情はどこまでも余裕がある。雲雀さんがさっき投げたトンファーを拾ってから、それを骸と相対するように構えた。

「悪いけど、ゆうこにも手出しはさせないよ。……覚悟はいいかい?」
「これはこれは、怖いですねぇ」

挑発する雲雀さんと、余裕綽々の骸さん。この二人の戦いは速すぎて目が追い付かない。


「…… なまえ!」


雲雀さんと戦って、他に気を回せない骸さんの隙を突いたゆうこが私の近くに来て、右手首を握る。手の甲に刻まれた傷跡を見て顔をしかめたゆうこに、大丈夫だから、と告げた。
雲雀さんが骸さんを引き付けてくれているおかげで、私は無事にゆうこに連れられてツナ達のもとへ戻ることが出来た。戻る途中、幻覚によって生み出された桜をものともせず強烈な一撃を骸さんに叩き込む雲雀さんを見た。骸さん痛そう。

血を吐き、大きく吹き飛ぶ骸さん。床に叩きつけられ、三叉槍も飛ばされる。幻覚だった桜は消え、リボーンが戦いの終わりを告げた。

「お…… 終わったんだ…。これで家に帰れるんだ!!」
「しかしお前、見事に骸戦役に立たなかったな」
「ほっとけよ!!……あ、」

リボーンとそこまでやりとりして、ツナが改めてこっちを向く。いきなりのことに対応できずにいると、両手を包み込まれたことに遅れて気付いた。

「…… 助けだすとか、色々偉そうに言っといて、結局俺が助けてあげられなかったけど、」
「助けたのゆうこだしな」
「……分かってるよ!……でも、よかった、なまえちゃんが無事で、本当によかった……!」

ぎゅう、と存在を確かめるように両手を包み込む力が強くなる。

「…… ありがとう、ツナ。……助けるって、言ってもらえただけでも、十分救われたから」

私は、実際は外側からこの世界を見ていた人間で、だからみんなと一緒に居ていいのかっていう不安は消えなくて、だから、仲間だと言ってもらえたのは、助けると言ってもらえたのは凄く私を救った。

「…… あ!早くみんなを病院につれて行かなきゃ!」
安心してる場合じゃなかった、そう言ったツナにつられて周りを見渡す。倒れた雲雀さんの傍にはゆうこ。ビアンキとフゥ太も今のところ無事のようだ。リボーンが、医療チームが向かっていると告げたことに安堵を覚える。

……けれど。



「その医療チームは不要ですよ」
「!」

気を失っていたと思っていた骸さんが起きている。構えた銃の銃口を私たちに向けて。

「なぜなら、生存者はいなくなるからです」

その言葉を合図としたかのように、私たちに向けられていた銃口は、骸さんの頭へ。


「Arrivederci――」


また会いましょう、その言葉を残して、骸さんは銃の引鉄を引いた。
重く、鈍い音の後に、大きなものが倒れこむ音。

骸さんが持っていた銃に装填されていた弾のことを知るのは、私とゆうこだけ。でもそれは、告げてはならないこと。未来を狂わせる訳には、いかない。

私はゆうこと顔を見合わせて、お互いの考えていることを確認した。


――――本当の戦いは、これからだ。
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