枷鎖
「……そんなに彼らが恋しいですか?」
「そりゃあ、ね」
13th. 枷鎖
三階の壊れた窓から廃墟となった黒曜ランドを見下ろす。M.Mとビアンキさんが戦ってる。獄寺に、山本、ああ、ゆうこもいる。あの浮いたように明るいススキ色はツナだ。
確かに神経は図太くなったかもしれない。でも、彼らと離れて淋しくない訳が無い。これでも結構淋しがりなんだよ?
ゆうこと敵対する黒曜ヒロイン、もとい黄泉さんがゆうこを倒す宣言をした後、先に席を外していたM.Mに続いてバーズや双子、ランチアさんと黄泉さんが一階の部屋を出ていった。骸さんと千種と私は三階に。
「助けに、行きたそうですね?」
「…… 私が行って、何になる?」
先を知っている、アドバイスくらいはできるかもしれない。でも、戦う力なんて無い。
「解っているじゃありませんか」
「まぁ、ね」
自分の力量くらい把握してるつもりだ。……状況を把握しろとは言わないで。明らかにおかしいよね。あれ、私さっき骸さんに人質宣言されなかったっけ。なんでさも友達のように話してるんだろう。
「ねえ、なまえ」
「……何ですか」
「力が無いことをあなたは自覚しているんです。ですから、僕に守られているつもりはありませんか?」
「……………………な、に?」
くふ、と小さく笑い声が聞こえる。振り返ったそこに、まるで名案だといわんばかりの笑顔。
「対等の立場に立って戦えないのなら、守られていればいい。あなたがあそこに居て苦しむというのなら、ここで、ただ僕に守られていれば、苦しむ必要もないでしょう?」
非戦闘要員。まるで私の心を読むように、誘惑する響き。これは、マインドコントロールか、私の本心か。
答えることにためらいを覚え、視線を窓の外に投げて逃げる。バーズが倒れていて、少し遠くにフゥ太が見える。はっとして振り返れば、そこに骸さんは居なかった。なんて行動早いんだあの人は。ついでに千種も居なかった。さっきの骸さんじゃないけど、逃げるぞコラ。……あ、やっぱ無理飛び降りとか無理。
フゥ太を追っていくツナをぼぉっと眺めながら、どうしても距離を感じずにはいられない。
さっきよりも、空は近いのに。
あ、あのうそ臭い演技の骸さん見たかったな。
骸さんが千種を連れて帰ってきた後、「中々面白いですね」と言って、私を縛っていた縄を解いた。あの、その言葉と行動の関係性が全く解らないんですが。
「ああ、逃げようとしたら千種のヘッジホッグの餌食になっていただきますから」
恐ぇーよ!
窓から見える、ランチアさんとツナ達の戦い。そして、それと同時進行で行われている、黄泉さんとゆうこの戦い。
後ろで骸さんがイヤホンを使ってあの戦いの会話をリアルタイムで聞いていた。
ので。
「あの、それ、聞いても……良いですか?」
ちょっと強行手段を取ってみた。
「………………。良いでしょう。どうぞ?」
その間は何だ、その間は。
突っ込みたいところだけど、突っ込んで「じゃあ聞かないんですね」なんて言われたら本も子もないのでスルーしておくことにする。
差し出されたイヤホンが右用だったので、骸さんの左に座ってイヤホンを耳に入れた。最初はうまく聞こえなかった声も、位置を調整していく過程でだんだんクリアになっていく。
『コラァ!!!何やってんだ――――!!!』
「!」
はっきりと、耳に入ってきたその声は、永らく聞いていなかったと感じてしまうくらい懐かしくて、
「ツ、ナ……」
思わず呼吸を忘れる。怒鳴り声だったのもその理由の一つだけど。
『降りてこいボンゴレ』
『ひっ、いや…あの…』
『女を殺して待つ』
『ビアンキ!』
『死ぬ気になるのは今しかねーぞ。暴れてこい。ラスト一発だ』
ああ、駄目、駄目だよリボーン。その人は骸さんじゃない。
言っても通じない。向こうは本物の六道骸どころか、私たちが盗聴してることすら知らないはずだから。
『……で……から………………しょ?』
「?」
ゴウゴウと音を立てる鋼球、その向こうから微かに聞こえる声。
『喧嘩しに来たんなら帰ったがいーよ。あたし、あんたみたいな可愛い子をグッチャグチャにする趣味なんて無いし』
『何それ……。まるで恭弥みたいな台詞』
『…… あんた、ホントむかつく。もういいよ、消えて』
『……っ!』
機械を通して擦れてはいるものの、あのメンバーつか並盛町で雲雀さんを恭弥と呼べるのはゆうこしか居ないので、必然的に相手は黄泉さん。
そうだ、
「あの、黄泉さんって、どんな方なんですか?」
本編に出ない、ゆうこの参加による相当者。その正体は、有能な殺し屋さんか、過去を共有する仲間か。
敵に「どんな人」も何もないだろうと自己突っ込みをしながら、骸さんの返答を待つ。少し、顔が歪められた。
「小さい頃から一緒に居た……家族のようなものです」
それから導き出される答えは「能力者」で(どこぞの漫画みたいだな)、ゆうこの身を案じる。だけど、ゆうこだから。全くの無傷、とはいかないだろうけど、でも、ゆうこは勝ってくれると思う。そう信じられるだけの要素が、あの親友にはある。
「なまえ、こちらへ」
「……え?」
不意に立ち上がった骸さんに促されるまま、窓ガラスに近づいた。耳から入る音声と、目から入る映像が、重なった。
「あれが、ボンゴレ…」
「これは驚きましたね」
崩れたコンクリート、それを押し退ける音、
「しかしあの程度では、僕の先輩だった男は倒せませんよ…」
土を踏みしめる、音。
『貴様になら全力を出せそうだ』
『!!』
『やっぱりさぁ、喧嘩と殺しって違うのよ』
『っ……く……』
「ツナ……ゆうこ……!」
崩れ出したら止まらない。