四年目の話


お正月と連隊戦が一段落すれば、そろそろ何があるかはもう分かる。本丸がにわかに慌ただしくなるのを、私は横目で見ていた。

「さて、分かっていると思うけれどね。君の就任四年目を祝おうと、明日に向けてみんな張り切っているよ」
「いつもありがとう、歌仙さん。新人さんも一緒になって祝って貰うの、毎年ちょっとくすぐったいんだけどね」
「なに、古顔もいれば新顔だっているのは、君が長く審神者を続けている証だろう。初めてこの日を迎えるものたちを見ていると、この本丸も大きくなったものだと感じられて嬉しいよ」

君が変わらず僕たちのそばにいてくれるのだと分かるからね、と言う歌仙さんに、なんだか気恥ずかしくなって目をそらす。

「厨番も増えたことだし、今年はより豪勢な食事が並ぶだろうね」
「楽しみだねえ」

こたつで温まりながら、ふたりのんびりと言葉を交わす。
毎年お祝いの料理を作ってくれている歌仙さんの手が空いていることが珍しくて、「厨に行かなくて良いの?」と尋ねれば、「もう仕込みは終わったからね」と静かに微笑まれた。いつの間に。

「毎年のことだから、燭台切たちに気を遣われてしまったようだよ。もう刀剣男士の数も七十を超えている。お祝いが始まれば話す時間も取りづらいだろうから、先にゆっくりしてくるといい、と言われてしまってね」
「気遣いの鬼だ……今度伊達組でのんびり遠征にでも行って貰おうかな」
「せっかく長船派も揃ったのだし、同派でというのもありかもしれないね」
「そうかー、そうだよねえ、やっと長船派全員揃ったしねぇ」

あとは静形さんお迎え頑張らないとだねえ、と刀帳の空欄に目をやる。早く巴さんと会わせてあげたい気持ちが湧き上がるが、相変わらず私の鍛刀キャンペーン成功率は推して知るべし値である。つらんい。
江戸城の確定報酬で来たりしてくれないかな! 無理かな!

「ともあれ、三年間の勤務お疲れ様、なまえ。四年目もよろしく頼むよ」
「……うん。任せて欲しいな」

いつもなら力一杯肯定できるはずの言葉に、ためらいが混じる。歌仙さんは不思議そうに目を瞬かせてから、「なまえ」とゆっくり名前を呼んだ。

「なにか、気がかりでもあるのかい。君は、じゅうぶんにうまくやってきたと思っているし、これからもうまくやれると僕は思っている。信頼しているとも」
「ありがとう」
「僕には、話せないことだろうか」
「……」

言えるか、言えないかで問われれば、言っても良いことだ。ただ、今話すには、少しだけ。すこしだけ、勇気が足りない。
何かを言いたげでありながら、何も言わずにただ私の言葉を待っている歌仙さんに、静かに視線を向ける。花緑青は、いつもよりもくすんでいるように見えた。

「歌仙さん」
「何かな、なまえ」
「明日まで、待ってくれる?」
「……ああ。それが君の望みであれば」

話してくれる意思があるのならば、僕も真摯に受け止める覚悟をしておこう、と眉を下げたまま笑う。めでたい日を前に、こんな表情をさせてしまうつもりはなかったんだけどな。せめてと思って、言えそうな一言を付け加えておいた。

「だいじょうぶ、悪い話じゃないと思うから」
「……そうかい。じゃあせめて、とっておきの茶と茶菓子でも用意して聞かせて貰おうかな」
「変なプレッシャーかかるんだけど?」
「どのみち明日は祝いの席なんだ、おかしくはないだろう?」
「そう言いながら新しい茶器のお披露目したいだけでしょ」
「なぜわかっ……ああもう。さすが四年も僕らに付き合ってくれた主だな!」
「ふふん、それほどでも」

少しだけこわばっていた表情がほぐれた。うん、いつもの笑顔には少しばかり固いけれど、苦い顔よりはずっといい。
明日はこの話をどう切り出そうかな、と言葉を探しながら、歌仙さんとの四方山話に明け暮れた。
- ナノ -