兆候の話


「きらびやか」
「おや、他の本丸の刀剣男士たちだね」

私の時代にチューニングされているテレビをだらりと鑑賞しながら、缶酎ハイに口を付けた。口内でじゅわりと炭酸が散っていく。歌仙さんが私の横、こたつの空いているスペースへ潜り込んできた。
年の瀬もあと数時間となる頃。公共放送の大型歌番組に他の本丸の刀剣男士たちが出ると聞き、私は期待しながら鑑賞していた。
……顔も良いけど声もいい。あと歌がうまい……!

「そういえば、なまえの時代のテレビ番組に出陣すると連絡が来ていたね。それかい?」
「それだよー。十九人。三条、幕末、源氏、徳川……あと巴さん、かな?」

大晦日の風物詩とも言える舞台を縦横無尽に駆け巡る男士たちは、とても生き生きしている。これまでもいくつか他の本丸について見てきたけれど、ここは一際華やかだ。
私と一緒にこたつを囲む面々が、テレビを見てははしゃいで騒ぐ。演練や万屋とはまた違う、出陣という形の他本丸を見るのは新鮮なのかもしれない。

「しかし、現代への出陣だなんて、よく許可が下りたものだね」
「うーん、彼ら、テレビに出ないだけで何度か現代遠征してるからじゃないかなぁ」

年末の乱舞祭? とやらはとても盛り上がるらしい。私はいろいろな制約があって見に行けたことはないんだけど。
歌仙さんと、テレビの中の本丸について話していると、向かいでテレビを見ていた安定くんが「いいなあ」と溢した。

「僕もなまえがいる時代に行ってみたいなあ」
「そーね。あの本丸の俺たちだけってずるいよね」

安定くんの隣、加州くんも同意するように続いた。ねえなまえ、と私の方を向いた加州くんが口を開く。

「俺たちもさ、なまえの時代に行けないかな。出陣とかじゃなくてさ、せめてなまえの家とか」

なまえだって家から来てるし本丸からも行けると思う。家の外に出なければ大丈夫だよね? と聞いてくる安定くんと加州くんに、私は苦笑いで「難しいかな」と答えた。

「私、審神者業やってること家族に言ってないからな……。みんなのこと見つかったらびっくりされちゃう」
「えっ、言ってないの?」
「私、成人。やることなすことにわざわざ家族の許可がいるような年齢じゃないからね……」
「言動だけ見ていると年不相応に見える部分もあるけれどね」
「歌仙さんそれ上に? 下に?」
「さあ? 自覚はあるんじゃないかい?」
「ぐ……」

初期刀が今日も辛辣! うめきながらみかんを一房口に入れた。おいしい。
事情を明かすと、起きた組の二人はそっかあ、と露骨に肩を落とした。

「ごめんね」
「ううん、良いよ。なまえが来る前に比べたら、こうして会えるだけでも、ずっと幸せなんだし」
「でも会えたら会えたで今度はずっと一緒にいたい、なんて。どんどん欲が出ちゃうよね……」

大丈夫、と笑う二人の笑顔は、裏にさみしさをにじませている。私だって、一緒にいられるならもっとずっと一緒にいたい。
……。

「なまえ? どうしたんだい」
「ん、ああ。なに、歌仙さん」
「……いや。いつもより、気が抜けているようだったからね」
「酷いなあ」

こたつ机の上、缶酎ハイを手に取って一口飲む。炭酸が弾けて喉をちくちくと刺した。
もっと、一緒にいられたら。いられるなら。
担当さんの年末休み明けは何日だったろう。脳内スケジュールをあさってみたけれど、アルコールを摂取した頭は、うまく日程を浮かべてくれなかった。
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