負けん気の話


年の終わりが近くなれば、そろそろだなあと予想も付くようになる。さて、今年は一体誰なのか。

「長義」
「うん? どうしたのかな、歌仙くん」
「政府は審神者をどうしたいのかな」

政府からのお手紙を届けに来てくれた歌仙さんが、ため息をつきながら近侍に尋ねる。歌仙さんから受け取った手紙を、近侍と二人でのぞき込んでみれば、長義くんは「ふうん」と楽しげに笑い、私は「ぐぅっ」と喉の奥を潰したような声を出した。

「今回の連隊戦の報酬は祢々切丸。審神者制度を開始してから初めての大太刀の追加だね。報酬達成数に関しては、昨年の日向くんも、一昨年の大包平殿も同じ十万だったと記憶しているけれど」
「そこに関してはもう何も言わないよ。主も既に麻痺しているしそろそろ手慣れている」
「ちょっと待って歌仙さん、さりげなく主けなすのやめよ?」
「むしろ覚悟しておくことだね、長義。うちのは一度ランナーズハイに入ると落ち着くまで時間を要するよ」
「へえ、意外だね」
「歌仙さん」

名前を呼んで咎めても、歌仙さんはどこ吹く風で耳を貸してくれない。初期刀が反抗期……。

「今回言いたいのは、追加報酬の部分だ」
「ああ、十万以上にも報酬が用意されるようになっているね。祢々切丸が最大三口迎えられるようになっている」
「追加報酬はありがたいけれど、問題は要求されている数だ」

ちらりと、恐怖をのぞき込む感覚で手紙に目を落とす。十万区切りで祢々切丸の名前が三つ並ぶ。つまり、三口全て迎えるには、三十万の収集が必要だ。単純計算、一日に今までの連隊戦の三倍は御歳玉を集めなければいけない。
長義くんは、確かに、と頷いた後、けれどと言った。

「別に無理をせずとも、十万さえ集めれば必ず一口は迎えられるだろう。あくまで残り二口は追加報酬なのだからね、戦力としては一口でも十分では」
「違う、問題はそこじゃないんだ、長義」

歌仙さんは神妙な顔で言葉を探した後、恐る恐る、事実を口に出す。

「うちの主は、負けず嫌いの気が強いんだ」
「歌仙さん喧嘩なら買うぞ? 言い値はいくらだ?」
「ほらね」

ほらねってなんだ、ほらねって!
ため息をついた歌仙さんは、腰に手を当てて言葉を続けた。

「今までは最終目標が収集数と報酬刀剣で一致していたから大丈夫だったんだ。意外かもしれないが、これでも計画的に物事を進めるのも得意なんだよ彼女は」
「ああ、先の秘宝の里でも、その手腕は確認させて貰ったよ」
「ありがとう二人とも。それはそれとして歌仙さん」
「けれど追加報酬と言われればね、反骨精神がうずくタイプだよ。ここまでやって見せろと言われているように感じる」
「歌仙さんは私のことをよくご存じだ……」
「もうすぐ四年目だからね」
「ありがとう、好き」
「僕も好きだよなまえ」
「その流れるような茶番は必要だった?」

ともあれ、バテないように気をつけるんだよ、と言って歌仙さんは仕事部屋を後にした。室内には少しばかりの沈黙が落ちる。

「……なまえ」
「……欲しいよね、三口」
「さすがの慧眼だよ歌仙くん」



歌仙さんの推察通り、反骨精神をあおられた私は、戦場が開放されてからがむしゃらに走り倒した。そろそろ極のみんなが戦力的にも十分になってきた、という点もあった。あとなかなか使わない小判が山のように。いやあ、連隊戦楽しいね!
クリスマスを控えた三連休もあり、ほぼ一日貼り付きっぱなしで走り通す私を見るみんなは、呆れるやら引いてるやら様々だった。特に新入り組にその傾向が強かったな……。戦好きは喜び勇んで戦場を走り回ってくれていたけれど。

三連休最終日、クリスマスイブが明けた深夜。よい子の元にはもうサンタクロースが来ている頃だろう。御歳玉カウントはもうすぐ十万。そう、お前がサンタクロースになるんだよ祢々切丸!

「なまえ、さすがにそれは」
「いや、サンタは政府でプレゼントが祢々切丸?」
「なまえ」

ランナーズハイってこういうことか! と頭を抱える長義君が見えるが無視だ。送り出した部隊を迎えに行けば、玉の数は10万を超えている。

「よーしみんな本当にお疲れ様! いったん寝よう!」
「お、お疲れ様でしたぁ……」

部隊長の五虎退くんが頭を下げる。これでも疲れ知らずで桜が舞っているので、刀剣男士はなかなか不思議な存在だ。今更だけど。
例年通り、こんのすけを通して報告すれば、受け取り箱に祢々切丸さんが送られてき…………おっきいな……。

「いつもは手に持ってこう、顕現するんだけどね」
「ああ、確かに俺もそうして貰ったね」
「……」
「……」
「大きい……」
「別に持たなくても良いんじゃ無いかな……」

主の力さえ渡せれば良いんだろう、と長義くんは言った。そうさせて貰おう。全長三百センチを超える祢々切丸さんの本体、私がふたり並んでも本体を越せないのでは。
ぺし、と鞘に手を当てて、力を送り込むイメージを持つ。刀全体に力が行き渡り、収束して弾けるように桜が散った。

「祢々切丸。我の名だ。山は良いぞ」

大きい。刀身も大きかったが人としての身長もかなり大きい。岩融さんとどっこいどっこいなのでは?

「主?」
「あっはい、主です! なまえです! よろしくお願いします!」
「ああ、よろしく頼む」

不思議そうに私を呼ぶ袮々切丸さんに、慌てて名乗った。さてまずは、思ったより本体も身体も大きかった袮々切丸さんの部屋をどうするかを考えなければ。
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