旅の話


刀剣! 夏のパン祭り!
引き換えは実装順に倣って小竜くんにしました!

透き通るような金髪と、たなびくマント。裏地の青は空の色にも見えた。
日の光の下できらめくアメジストが、静かに私を見下ろしている。

「キミが、今度の主かな?」

小竜さんは旅好きという話通り、本丸内外をあちらこちらへと散策していることが多い。刀剣男士としての役目もあるため、普段大きな遠出をすることはないけれど。なのでと遠征部隊に選ぶと、めちゃくちゃ嬉しそうにする。可愛い。
玄関先でお見送り、と手を振れば、小竜さんはハーフアップの髪をふわりと揺らして手を振り返してくれた。

「旅は良いねえ。行ってくるよ、主」


本丸の時間と遠征先の時間の流れは違う。ある意味では修行の短縮版とも言えた。こちらで待つ時間と、向こうで彼らが過ごす時間に隔たりがあっても大きな問題が無いのは、ひとえに彼らが付喪神だからだろう。
私からしてみれば数時間の不在を、彼らは多くの言葉で語ってくれた。

「俺はやっぱり、江戸の遠征が好きだなあ。任務名は……天下泰平だったかな」

今日の遠征報告を終えてなお、執務室にとどまっていた小竜くんは、私に話をしてくれた。江戸の天下泰平。さほど難しい条件ではなく、遠征時間も2時間半と長いものではない。

「時折小さな諍いを見ることはあるけれどね。それでも戦の気配を強く感じることはない。見回りをしていると、本当に平和な時代だったのだと感じずにはいられないよ」
「歴史をひもといても、平和が長続きしていた珍しい時代だね」

特に遠征の対象となるのは寛永文化が盛んな頃だ。旅好きな彼にとっては、まさしく旅を楽しめる遠征になっているのかもしれない。

「ああ。おかげで、おおよそ何もなければこんなこともあるんだよ」

言いながら彼が懐から出したのは、一つの包みだった。受け取ってから彼を見上げれば、無言で頷かれる。開けて、ということと解釈して、私は包みをひもといた。
厚手の包みから顔を出したのは、ふわふわの黄色。卵色のそれは、パンのようでもある。

「小竜くん、これ……」
「花や魚を持って帰れるのだからね。菓子の一つくらい持って帰ってきたところで、歴史が変わることはないんじゃないかな」

ちなみにそれは、君も食べたことがあるお菓子だよ、と小竜くんはウィンクをしながら言った。キザな仕草も似合うな長船派!
黄色のふわふわ、パンのような生地。パンケーキのようだけれど、江戸時代にはパンケーキはなかったはずだ……。

「食べてから答えても?」
「ふふ、キミは考えるより実践タイプかな? どうぞ」

許可が出たので遠慮無く、一口サイズにちぎって口に含んだ。卵と砂糖、小麦粉の素朴な味が口いっぱいに広がる。ふむ。これは。

「ぱんけーき……!」
「違うねえ」

確かに材料は同じだけれど、当時は別の名前だったよ、と小竜くんはくすくす笑った。

「日本に伝来した当初のカステラだよ。意外とこんな素朴さも悪くないんじゃないかな」
「カステラ……!」

なるほど、江戸時代のカステラはこれなのか。過去の文化を今、体験しているという現実に感動していると、小竜くんが手を伸ばしてきた。少し大きめの一口サイズにちぎられたカステラは、彼の口へと消えていく。

「キミはここの主だから、旅に行くこともなかなかないだろう? だから俺が、旅の思い出を届けに来るよ」

そうしたら、キミと旅の思い出を共有できるからね、なまえ。
あまりにも綺麗に笑うものだから、私はただ呆けて彼を見上げていた。

「だからまた次も、江戸時代への遠征をお願いするよ、なまえ?」
「ぐっ、そういう魂胆かーっ!」
「っはははは!」
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