猫の呪いの話


「なまえ、次の任務詳細が届いたよ」
「はーい。江戸城だったよね。新人さんは……一文字派?」

歌仙さんが郵便受けから持ってきた封筒を手渡してくれる。
中から取り出した書類に記載されていたのは、任務地である江戸城の開放期間と、宝物庫にあるという、新しく確認された刀剣男士――南泉一文字について。

「一文字派、欲しいって審神者さん多かったもんねー。これを皮切りに一文字派も増えるかな」
「そうなのかい?」
「うん。姫鶴一文字が刀剣男士として男の姿で顕現するのか、乱くんみたいに女の子っぽい格好なのか、それとも逸話的に女性の姿を取るだろうから実装が見送られるのかという談義が」
「悲喜こもごもだね……」

姫鶴さんはともかく、今回実装されたのは南泉一文字。お手紙には南泉くんについての簡単な説明も付記されている。

「南泉くん、福岡一文字派の作なんだね。ちょっと親近感あるかも」
「おや、君にしては珍しい。一文字派に興味があるのかい?」
「審神者になってから、私の時代のほうで、長谷部さんと日本号さんが居る博物館に毎年お正月頃通っていたんだけどね。そこに日光一文字さんが居て。二人にゆかりのある刀工さんの刀だと思うとね」
「君は地元にゆかりのあるものは大体好きだね」
「何でだろうね。地元愛があるってよく言われるね」

不思議なんだけどね、これ。

「ともあれ江戸城、慣れたものだしさくっと行きましょうか! 鍵を集めて目指せ南泉くん!」
「ああ。今回も頑張ろう」

歌仙さんと拳を突き合わせ、決意する。……ところで政府のお手紙に書いてある、猫の呪いって何だろう。


さくさく宝物庫を荒らして、もとい、鍵を開けていけば、早四つ目の倉。とはいえここまで来るのに十日ほど費やしてしまった。イベントの残り日数も少なくなってきたのでガンガン手形を追加して走る。江戸城の遡行軍さん鍵落とせー!

「そろそろ鍵も貯まってきたね。開けるかい?」

歌仙さんに言われて、改めて今所持している鍵の数を確認する。見れば百ほど貯まっていた。結構大きい数に見えるけれど、これで開封できる宝箱の数は二十なのだから、多いのか少ないのか……。毎回悩むところである。

「開けるー! そろそろ南泉くん来てくれますようにー!!」
「ああ。そろそろ来て欲しいところだね」

もう慣れた手つきで宝箱を開封していく。資材か小判か便利道具か。積み上げられる物を横目にひたすら箱の蓋を持ち上げた。いくつ目の開封だっただろうか。軽い手つきで持ち上げた蓋の下には、一振りの刀が収められていた。

「お……おおお……! 南泉くんだー!」
「おめでとう、なまえ。先に資材と道具を片付けてから、顕現しよう」
「おう、片付け大事……。じゃあちょっと南泉くん預かっててね、歌仙さん」

心得たよ、と頷く歌仙さんを見てから、こんのすけを呼ぶ。資材や小判を倉庫に転送してから、南泉一文字をもう一度手に取った。
収束した力が刀に宿り、弾けるようにあふれ出す。桜の向こうに、黒と金色が覗いた。

「本当のオレは、背が高くて泣く子も黙る恐るべき刀剣男士のはず。それが……なんでこんなことになってんだぁ。……呪いだ! 猫の呪いだ……にゃー! ……ごろごろ」

現れた刀剣男士、南泉一文字に、私は目を見開いた。な、何から言えば良いんだろう……! えっと、えっと……!

「の、喉慣らした……! ごろごろ……!」
「こ、これは呪いのせいだ……にゃ!」
「主。混乱しているのは手に取るように分かるけれどまずは言うべきことがあるだろう。はい、挨拶。名前」
「うぃっす」

ごろごろが可愛くてつい目を輝かせてしまった。ネコチャンは正義。そういえば花丸本丸さんでは刀犬男士なんてものもやっていましたね……! 犬派と猫派両方に手厚い! じゃなくて。というかそもそも刀犬男士は犬耳だから犬じゃないな。
歌仙さんの詰るような言葉に肩をすくめてから、新しい仲間に手を差し出す。

「初めまして、南泉一文字。この本丸の審神者、みょうじなまえです。これからよろしくお願いします」
「ああ。よろしく頼む……にゃ」
「はい!」

緩く握り替えされる掌は、ほんのり温かい。ふるりと揺れた髪が跳ねて、首元の鈴が小さく鳴る。
胸元とお腹が見えているのがちょっと気恥ずかしくはあるけれど、まあ追々慣れていこう。

ところで猫の呪いが可愛すぎて、審神者としてはもう少し解けないままでも良いんじゃ無いかなって思うんだけど。本人には絶対言えないな……!
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