豆まきの話


「鬼退治だ野郎どもおおおお!!!」
「主! 言葉が汚い! 正座!」
「ごめん歌仙さん」

雅チェック早いよぉ。

一月末に、政府から届いた緊急の手紙。広間にみんなを集めて手紙を開けば、思いも寄らない情報が書かれていた。
とある時代の都に「鬼」が出現したという。古来より日本では鬼の存在が語られているが、今回に限ってはまさに「鬼」だった。

「『調査の結果、鬼の正体は時間遡行軍でした』……あいつら鬼みたいな見た目してるもんなぁ……わかる……」

ところで政府からは『投豆兵』を使って鬼退治しろって言われてるんだけど、マジで鬼なの? 時間遡行軍なのに豆で退治されるの? 何やってるの時間遡行軍?

「現在、初めて観測される時代に遡行軍が出現しているのです。また、都での戦闘になります。鬼の出現で混乱している都に投石や弓矢、銃が飛び交えば、さらなる混乱に陥ります」
「うーん、まあ、言われてみれば分からなくもない」

こんのすけからの補足に、私はうなる。政府も、時代に影響を出さないようにと必死なんだよなぁ。確かに、場所によっては馬に乗れない投石出来ない、銃兵使えないってのあったし。

「ですので今回は、都の方々の『鬼が出た』という認知を利用して、鬼もとい時間遡行軍に効く特殊な「豆」を開発しました!」
「あくまで鬼退治に見せかける、ってことかー。政府有能って言えば良いのか、真面目に馬鹿やってるなぁって言えば良いのか」
「大包平のことか?」
「呼んだか鶯丸!」
「古備前座って」

投豆兵はどの刀種でも装備出来るが、都の時間遡行軍の退治が確認されたら消滅するという。いつもの時間遡行軍には効果がないってことか。

「あくまで、都の人々の認知を利用した対敵刀装ですからね」
「なるほど」

今回の戦場での立ち回りはだいたい理解出来た。「鬼は外!」して打ち漏らした敵はいつも通り切り捨てろってことね?

「物騒ですが、まあ、そういうことですね」

よしよし、じゃあ隊を組んで都に繰り出しますか、と意気込んだ私に、あっ、とこんのすけが叫んだ。

「敵を倒すと福豆が回収出来ます! 本丸で豆まき出来ますよ!」
「本格的に何してるの都の時間遡行軍?」

カレンダーはもう数日で二月を迎える。敵さんも節分満喫したいんだろうか、と遠い目をしたのはここだけの話である。


本丸各所から「鬼は外」やら「福は内」やらの声が聞こえてくる。どうやら本丸豆まき大会、なかなか盛り上がってるみたいだ。

「豆まきと言えば、歳の数だけ福豆食べるけど、みんなも?」
「なまえ、三条派の分だけでも、5000は豆が必要になるけれど?」
「すいませんでしたっ!」

いくら都で拾えるといっても、さすがに桁が……! 全員分だと10000超えるかな……。

「とはいえ、君はきちんと歳の数、食べた方が良いかもしれないね」
「どうして?」

まいた豆を拾いながら、歌仙さんに尋ねてみれば、彼は私の方を見て緩やかに笑った。

「主の君に、なにかあってはいけないからね。しっかり鬼は払って福を招かないと」
「……ありがとう、歌仙さん」

でも本丸には鬼くらい切りそうな刀、いっぱいいるんだよなぁ!

「鬼を切るなら任せてよ、なまえ」
「鬼なんぞぶった切ってやるよ」
「わぁ髭切さん同田貫さんやる気満々ですね!」

豆をまいて鬼を払って、加えてこんな頼もしい刀剣男士たちもいるのだから、きっと今年の鬼は、裸足で逃げていくに違いない。
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