三年目の話


日向くんを無事お迎えして一安心。これでしばらく休めるぞ、と気を抜いていたところ、歌仙さんから頭を小突かれた。

「痛い!」
「全く、なまえ。……連隊戦が終われば、大事なことが待っているだろう」
「大事なこと」

む、と顔をしかめた歌仙さんは、静かにカレンダーを指さす。つられて目を向ければ、数日後に迫った、赤い丸で囲まれた、特別な日。

「……ふ、ふふ」
「なまえ?」

思わず、ふにゃりと頬が緩む。大事なこと。何度繰り返しても、大事な日だと思ってくれているんだな。

「あっという間だったね」
「本当に。仕事に慣れるのは良いことだけれど、気を抜きすぎないように」
「はぁい」

と言いながらも、うっすら桜が舞っているのは知っている。歌仙さんだって、楽しみにしてくれているんだな。
私が本丸に就任した日。この本丸の、始まりの日。
歌仙さんと前田くんから始まった、一つの本丸の軌跡、その三年目が終わろうとしている。

「ところで歌仙さん」
「なんだい、なまえ」
「今年もいっぱい歌、詠めた?」

就任一年を迎えたあの日、歌仙さんが綴った本丸の一年間を覗かせて貰った。記念日には、毎年見せて貰うのだけれど、今年も見せて貰えるだろうか。
少し不安げな気持ちを隠しながらも尋ねると、歌仙さんはふと笑みをこぼして私の頭を撫でた。

「ああ。今年もたくさん詠めたよ。だから、今年もきちんと時間を取って貰わないとね。僕の見てきたものを、君とだけ共有できる、貴重な時間なのだから」
「む、いきなり格好良いこと言うの禁止だよ歌仙さん」
「おや、今のは君にとって格好良い、に入るのか。覚えておこう」
「意地悪ー!」

年数を重ねて、会話を重ねて、だんだん歌仙さんはしたたかになってきた気がする。お小夜ちゃん呼んじゃうぞ。

「さあ、では広間へ向かおうか、なまえ。就任三周年になることを、皆にも知らせておかなければね。新人たちには初めての記念日だし、古株でも、連隊戦で気が抜けて、忘れているものも居るだろうから」

先ほどの君みたいにね、と歌仙さんが意地悪く笑う。私は強めに歌仙さんの背を叩いたが、気にもとめていないようだった。
やっぱり私程度の力じゃダメージにはならないか……!
冷え込む廊下を、私と歌仙さん、二人並んで歩幅を合わせて歩く。

「今の僕は気分が良いからね、記念日には君の好物でも作ろうか」
「歌仙さんが料理番するの? どちらかというと、本丸立ち上げに関わってるし、祝われる側では?」
「僕が君を祝ってはいけない理由もないだろう?」

一度言葉を句切ると、歌仙さんは私を見下ろしながら続けた。

「三年、というのは区切りだ。継続するのはなかなかに根気がいる。それでも君が、僕たちとともに戦い続けてくれている」

だから、祝いたいのさ。君が今日も本丸に居てくれるということを。歌仙さんはそう締めくくって、目元を柔らかく緩めた。

「楽しみにしているといい。久しぶりに、腕を振るわせて貰うよ」
「じゃあ私は、夜のためにとっておきのお酒でも用意しようかな!」
「はは、期待しているよ、僕の主」

歌仙さんの、淡い紫色の髪がふんわりと跳ねる。就任日、楽しみにしているのは私だって同じだってこと、当日はめいっぱい、思い知らせてあげることとしよう。
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