梅の話


今年も見事に御歳玉10万! 走った走った! 最後のお手紙まで走ったからだいぶハイペースに走った……!
寒さ厳しい新年の、慌ただしさが少し落ち着いた頃。日向正宗くんは、私の本丸に顕現した。久しぶりの短刀だ! と思ったのも少しだけで、落ち着いた所作は時々、彼が短刀であることを忘れそうになるほどだ。
元の持ち主が石田三成公だというし、正宗の名を持つ刀というのは、いろんな媒体でよく耳にする。どんな子だろうとドキドキしていたのだけれど、実際顔を合わせた日向くんは礼儀正しく、お手伝いをはじめとする手助けが好きな子だった。今日も近侍を任せていたのだけれど、「終わったよ」と笑顔で書類を差し出してくれた。審神者駄目になりそう。
年末年始も連隊戦でぶっ通しだったこの本丸は、連隊戦が終わってからしばらく休みを取るようにしている。ひとときの休憩を挟んで、日向くんのレベル上げをしていれば、一月も折り返しを過ぎていた。

「なまえさん、休憩したほうが良いんじゃないかな?」

日向くんに声を掛けられて、書類仕事を一休みして外へ向かう。暖房の効いた部屋から出るのは勇気がいるが、部屋にこもりっぱなし動かないままでは、仕事効率も落ちてくる。甘やかされてるなあと思いながら障子を開けば、きん、と冷えた空気が肌をなめる。ぶるりと身を震わせれば、「なまえさん、寒いの苦手だよね」と笑った日向くんに手を取られた。

「温かい……」
「刀剣の付喪神である僕が、人であるなまえさんより温かいというのも、なんだか不思議だね」
「むぅ。冷え性故致し方なしー」
「そうだね、女性は冷えやすいというから。途中、厨で梅昆布茶でも作って貰おう」
「やった!」

とりとめもないことを話しながら、縁側を歩いていると、ちょうど中庭にさしかかる。降り積もる雪、鈍色の空と白い雪のなか、とある木に赤い色が宿っているのを見つけた。

「あ……」
「どうしたの、なまえさん?」

あれ、と赤い色を指さす。日向くんが庭を見渡していると、「梅だなぁ」と穏やかな声が割って入った。

「鶯丸さん!」
「散歩か、なまえ」

ですです、と頷けば、鶯丸さんは眦を下げた。ちょうど梅が咲き始めたんだ、と言って、先ほど私が見つけた木の方へ、視線を動かす。

「しばらくすれば、満開になる。そのときは、ともに花見でもしよう」
「楽しみにしてますね!」
「ああ」

鶯丸さんと約束を交わすと、彼は私たちの横を通り過ぎて行った。今日は手合わせの内番を組んでいたはずだし、道場に向かったのだろう。もう一度、庭の梅に目をやると、隣にいた日向くんが「もう梅が咲く時期だったんだね」と零した。

「そうだね。ついこの前、年を越したばかりだと思ってたのにね」
「ふふ。時間を惜しむには、まだ早いよ、なまえさん」
「そうかなあ」

微笑む日向くんに手を引かれて、厨の方へと足を進める。ふと、隣に並ぶ日向くんの内番衣装も、梅を思わせる赤い色だなと考えた。紀州に在ったから、梅干し作りが得意なんだっけ、確か。

「ねえ、日向くん」
「なんですか、なまえさん」

とたとたと、軽い足音を重ねながら、私は日向くんに話しかける。

「中庭にあったのは花梅なんだけどね、畑の方には実梅の木もあるんだよ。まだ教えてなかったよね」
「ええっ、実梅もあるなんて、もっと早く教えてくれれば良かったのに」
「ばたばたしてたから、ごめんね」

ちょっとだけ、すねたような顔を見せる日向くんに謝ってから、私は言葉を続ける。

「いつもはね、歌仙さんが梅酒を作ってくれるんだけど。日向くんは梅干し作りたいよね」
「ええと……うん、作らせて貰えるなら、作りたい、かな」
「良かった! せっかくだし、梅の木増やそうと思ってたんだ。人も増えたし、梅干しも梅酒もどちらも楽しみたいからね!」

タイミングが良ければ、厨で歌仙さんに会えるだろう。そのときに相談でもしてみようかな。

「なまえさん、僕を甘やかしてない?」
「今まさに、私が甘やかされてるからお相子じゃないかなぁ」

くすくす、潜めた笑い声に足音が重なる。厨で梅昆布茶に舌鼓を打つまで、もう少し。
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