騒がしい話


今年もお正月を無事に迎えることができてほっとしている。連隊戦の進みも良い具合だし、近日中には日向くんもお迎えできるだろう。休めるようで休めないお正月だが、これが本丸らしいといえば、らしいかもしれない。

「まったく、ここは新年早々騒がしいな。おとなしくできないのか」
「大包平さん」

こたつの天板に並べられたお皿を片付けていると、広間に入ってきた大包平さんが苦々しい顔で呟いた。そういえば、大包平さんが来たのはお正月もずいぶん過ぎてからだったから、この人が本丸でお正月を迎えるのは初めてだったか。どかりと、空いた場所に座り込んでから、こたつ布団の中に足をいそいそと入れている。少しばかり曲げられた猫背は、普段のしゃんとした佇まいからは少しだけ離れていて、なんだかかわいらしく見えた。冬はこたつの魔力に勝てないよね、わかる。

「まだ連隊戦も終わってないし、六十六人も居れば騒がしくもなってしまうんだよね。ごめんね」
「なまえが謝ることでは無いだろう。連隊戦が終わっていないのも知っている。だが、正月なのだから、もう少し慎ましやかに過ごせないかと思っただけだ」

私は目を瞬かせた。普段は騒がしかったり、こちらから関わっても親しみやすく答えてくれる人の良い刀剣男士なので、ついつい忘れそうになるのだけれど、根はとても素直で真面目な人だ。

「ありがとう、大包平さん。でも、私はこの騒がしいお正月も好きだよ」

増えたなあ、って実感する。これが私のたどってきた本丸の在り方なのだと示される。何より。

「ななまんさんぜんー! 薬研、今日のノルマあといくつだ!?」
「あと二千くらいか。なまえに報告したら、すこし休憩入れるか」
「僕も少し疲れましたー……」

がやがやと、門の方から帰還した部隊のみんなの声がする。愛染くんと薬研くん、最後のは秋田くんだろうか。連隊戦中特有の騒がしさがないと、なんだかお正月って気がしないのだ。恒例行事ってやつだろうか。

「毎年この時期は連隊戦でてんやわんやしてるからね。戦ってるみんなを労う意味でも、少し騒がしいくらいが良いのかも」
「そういうものなのか、なまえは。……まあ、人が増えるたび行事のたび、なにかと騒がしい本丸ではあるか」

ふう、と息をつく大包平さんの後ろ、同じ色のジャージが見える。おや。

「去年も、おまえを迎えるために同じような騒ぎだったぞ、大包平」
「うぉっ!? ……っ、急に背後に立つな鶯丸!」

大きく肩を跳ねさせて、後ろを振り返る大包平さんに、つい笑いがこぼれる。ほぼ一年、一緒に過ごしていて、鶯丸さんの言う「大包平の観察」がよくわかった。確かに見ていて楽しい。

「いやなに、大きな背中が、所在なさげに丸まっていたものだからな。何事かと声をかけただけだぞ?」
「だからといって、わざわざ背後から声をかけてくるやつがあるか! 正面から来い!」
「別に背後からでもかまわないだろうに」
「俺がかまう!」

テンポの良いやりとりに、くすくすと笑ってしまった。身近な人たちの話は、聞いていて楽しい。古備前の彼らしかり、源氏兄弟や粟田口の彼らなどもしかり。

「もう少し騒がしいのが続くと思うけれど、よろしくね、大包平さん」
「なぜ俺に許可を求める。おまえの本丸なのだから、おまえの思うとおりに指揮を執れば良いだろう、なまえ」
「……ふふ、そうだよね、うん」

しっかりと背中まで押されて、ああ、だから彼らを好きで居るのが止まらない。今年もよろしく、と言えば、当然だと自信たっぷりの声が返ってきた。
- ナノ -