振り返る話


「さぁーて、来年のみょうじ本丸はー!?」
「どうしたんだい、なまえ。今年が終わるには今しばらく時間があるよ」
「小竜景光、顕現成功。謙信景光、顕現成功。小豆長光、顕現成功の三本です!!」
「どうしたんだい、なまえ。初夢を見るには早すぎるよ」

某日曜日の昭和アニメ風に言ってみても、ちょっぴりむなしさが加速するだけだった。歌仙さんの冷静なツッコミが胸に響く。
今年、私の本丸に縁を繋いで、顕現してくれたのは7振。合計で66振を有する、そこそこ大きな本丸になったと思う。審神者業務を始めた当初は、こんなに賑やかになる日が来るとは、思ってもいなかったのは、ここだけの話だ。
本丸の、建物自体も広くなった。その分手数も増えたので、掃除や年末年始の準備に人手が足りなくなることはない。

まずは一月。連隊戦を走り抜いてお迎えした、長らく待ち望んだ大包平さん。村正さん鍛刀チャレンジには失敗したけど、その後の江戸城で無事お迎えすることが出来た。これは四月。
夏真っ盛りの七月、汗を拭いながら掘り進んだ大阪城50階。小さい子好きの毛利くんをお迎え出来た時の、一期さんの笑顔は嬉しさと、弟の奔放さへのちょっとした申し訳なさがあった気がする。
八月も終盤、秘宝の里で楽器を集めながらお迎えしたのは、七振目の脇差。脇差の追加は物吉くん以来だったから、ちょっとはしゃいだんだっけ。本人も割とノリの良い子だったので、すぐに本丸に馴染んでくれた。
九月の初め、戦力拡充計画が実施されたとき。物吉くんが修行から帰ってきたその日に、貞宗くんが亀甲さんを連れてきてくれた。これで、去年の暮れに言っていた、「貞宗派の長男をお迎えする」がようやく叶ったものだ。やっぱり兄弟(と言って差し支えないかな)が揃っていると、こちらも嬉しい。
十月には、二度目の江戸城が開かれた。連続実装(鍛刀キャンペーンめ!)された長船派の四振目。確定報酬で良かったと、がっちり光忠さんと握手を交わして臨んだ。歌仙さんにはばっちり呆れられていた。大般若さんをお迎えした日の光忠さんは、珍しくお酒をたくさん飲んでいた。
先月の末には、我が本丸にも二振り目の薙刀をお迎えすることが出来た。やはり薙刀が二人いると、戦場での安定感が違う。早く先の岩融に追いつきたいものだ、と言ってくれた巴さんに、頼りにしてると言えば少しだけ頬を染めていて、可愛らしかった。

「歌仙さんから見てどうですか、今の本丸は」
「なんで丁寧な口調なんだい。……まあ、悪くないと思うよ。君が顕現が苦手なのは、三日月の頃から分かりきっていたことじゃないか」
「ぐぅっ……」

今年は新人との巡り合わせが悪かったのさ、と歌仙さんは笑った。

「君は資材を使い込むのを躊躇うからね。試行回数が少なければ、出会うものも出会えないさ」
「そこも一因だよね……」
「まあ、その分戦場では頑張っているじゃないか。僕たちは僕たちの本丸らしいペースで、進んでいけばいい。新人を迎えるばかりが、審神者の仕事では無いだろう?」
「歌仙さんの言うとおりだけど。でも、やっぱり新人さんはお迎えしたいじゃない。今年は特に長船派でさー。光忠さんには初期の第一部隊でとっても頑張って貰ってたし」

ぶすくれて言うと、歌仙さんは、それでも、と言葉を発した。

「出会いは縁の巡り合わせだ、なまえ。今年会えなかったとしても、いつか、会える日が来る」
「だね。じゃあこれは来年の目標だ。うん。次の目標が見えてるのは、良いことだ」

日向くんお迎えしました、次まで手持ちぶさたです、よりずっといい。また鍛刀キャンペーンなら資材を貯めるし、戦場タイプなら部隊の強化に努めるだけだ。っと。

「そうだそうだ、当面の目標、日向くん! 連隊戦頑張らなきゃだね!」
「ああ、すっかり年末年始の風物詩だね。一年目にわたわたしながら指揮を執っていた君が、遠い過去のことのようだ」
「実際遠い過去ですー! 三度目にもなれば慣れてきますー! 歌仙さんの意地悪!」
「ははは。それだけ元気があれば、部屋の片付けと部隊の指揮の両立は簡単だろう?」

あああ! もう! なんだか歌仙さんに良いように振り回されてるみたいでちょっと悔しい!

「はいはい、頑張りますー! 歌仙さんも、休憩終わったらみんなの様子の確認お願いするね!」
「ああ、任せてくれ」

私は唇の端を持ち上げて、軽い足取りで部屋を後にした。慌ただしいくらいが、私の本丸の年末にはちょうどいいのかもしれない。
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