贈り物の話


新人さんへの案内も兼ねて、般若さんをお供に万屋へと出向いた。俺にお供しろってことかい、と笑う彼に、そうだよと答えれば、きょとんとした顔を返されたのは、少しだけ可愛く思えた。
相変わらず万屋街は賑わっている。ちらほらと、同じ般若さんを連れた審神者を見かけるのは、同じように万屋を案内しているからだろうか。
人の数、店の数に圧倒されているのか、目移りしている般若さんに、私は振り向いて声を掛ける。

「あまりあちこち見ていると、はぐれちゃうよ」
「……、ああ、そうだな。それはいけない。だが主、ここには見たいものが多すぎる。後で是非、時間を頂けないだろうか」
「うん、良いよ。長くなりそうなら、また別の日に慣れた人でも付けようか」
「それは良い! では今日は、次に訪れるときの目星を付けていくことにしよう」

私の提案に、般若さんは目元を緩ませた。しばらく歩けば、見慣れた万屋の看板が見えてくる。

「主、今日は何を買うんだ?」
「江戸城もけっこう出陣したし、ここらで少し息抜きにでもなればと思って。ちょっとお菓子とか、お土産とか買えたら良いなあって思ったんだけど」
「なるほど。皆も喜ぶだろう」

般若さんの同意を得られて、私は小さく笑う。とはいえ、流石万屋と名を冠するだけあって、品数が膨大だ。くわえてうちの本丸に居る人数も、六十を超えている。一人一人に別の物を選んでいては、日が暮れそうだ。

「まとめ買いになってしまうの、ちょっと悪い気がしてしまうなあ……」
「なに、気にすることは無いだろう、主」
「般若さん?」

私が独りごちると、隣にいた般若さんが軽く肩を叩いた。見上げれば、柔らかな眼差しが下りてくる。

「なまえが心を込めて選んだものであれば、皆は喜ぶだろう」
「そう、かな」
「そうとも。俺たち刀剣男士は、人の思いから生まれた存在だ。気持ちを込めて贈ったものは、ちゃんと分かる。まして今の主が心から選んでくれたものとあれば、間違いない」
「……」

そう、なるのか。私は般若さんの言葉に目から鱗の気持ちだった。

「さあ、なまえ。たくさん悩んで選ぶと良い。とはいえ、俺の散策に付き合う時間も作って貰いたいところだが」
「あっ、わ、じゃあ選んでくるね!」
「急ぐな急ぐな。焦ってし損じれば元も子もないぞ」

商品が山積する店内を、他の利用者に迷惑にならないようにうろついては、めぼしいものにあたりを付ける。予算との兼ね合いもあって、結局はいつもより少しだけ高めのお菓子と入浴剤に落ち着いた。

「お待たせしました。帰ろうか、般若さん」
「ああ。待っていない。大丈夫だ」

暮れ始めた日を背に、二人並んで帰路につく。時折足を止めては、近くの店内を覗き込む般若さんを、後ろから眺めていた。

「うん、やはり楽しいな」
「良かった。何か欲しいものは見つかった?」
「ああ。一目惚れしたものがあったからなあ、つい取り置きを頼んでしまった」
「あらら。じゃあ、急いで取りに来ないと」

そうだな、と同意を返す般若さんの顔は楽しげだ。夕日の橙色に照らされて、銀色の髪がつややかに煌めいていた。
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