お団子の話


兎追いし団子の里。イベント名はファンシーなのに、実際はかなり疲労を伴う戦場のようだった。

「……珍しいね、大太刀まで揃って全員疲労度が高いよ……」
「な、んなんだろうね、あの里は……! 今までと勝手が違うよ……」

ぜー、はー、と肩で息をする歌仙さんなど、カンストしてこの方ほぼ見なくなった姿だ。逆に珍しすぎてうっかり頬を伝う汗にときめきかけた。いけないいけない、辛そうなのを喜んじゃいけない。
しかし、里の開放と同時に入荷された一口団子なる疲労回復アイテムがある。その名の通り一口サイズだけれど、食べればたちどころに桜吹雪が舞うほど、戦意高揚する代物だ。危ないお薬的な何かじゃないだろうかとまことしやかに囁かれているが、政府公認の万屋に卸されているのだし、大丈夫、だろう、多分。恐らく。

「歌仙さん、お団子食べたら交代しようか」
「ああ、そう、させて、貰う……っ、はー……」
「……本当に大丈夫……?」

冷蔵庫から出した一口団子と、歌仙さんの湯飲みに緑茶を注いでお盆に載せれば、擦れた声で「ありがとう」、と返ってきた。ふらふらした足取りだと落とすかもしれないな、と不安が過ぎったので、お盆は山姥切くんに任せることにする。

「分かった。歌仙、歩けるか?」
「すまない……。歩ける……」

並んで厨を出て行く歌仙さんと山姥切くんの背中を見送ってから、私も厨を後にした。全員が落ち着いてから、次の編成を考えよう。
のんびり縁側を歩いていると、三つ並んだ人の影を見つけた。近づけば、同田貫さんと和泉守さん、堀川くんだと分かってくる。向こうは流石に私だと気付いていたのか、驚く様子もなく、軽く手を挙げて「よう、なまえ」と挨拶をしてくれた。

「びっくりした。珍しい組み合わせだね」
「おう。時間が空いたからな、同田貫と手合わせしてた」
「里はぬるいくせに疲れやすくて参ってたからな、手合わせでもしないとやってられないぜ」
「ということで、今終わって一息ついてたところです」
「……あれだけ疲労度たまってたのに手合わせする元気あるの流石だなぁ……」

たしかに、戦場のレベルとしては、さほど強いわけでもないので、戦い慣れたみんなからしてみれば、物足りなさもあっただろう。でもそこで手合わせしちゃうの、インドアの主はちょっと分からないな!
堀川くんがそばに置いたお盆には、さっき私が歌仙さんに用意したものと同じ組み合わせが、みっつ揃えられている。出陣して、手合わせして、おやつに一口団子ってところだろうか。
同田貫さんが無造作に団子を口に入れ、咀嚼する。途端に、うっ、と顔をしかめたものだから、私は心配になって声を掛けた。

「ど、同田貫さん大丈夫?」
「ん、あ、ああ。いや、こりゃなんだ。染みるくらい甘いなこれ」

確かに疲れは取れるけどよ、と続けた同田貫さんに、私はふと息を吐く。具合が悪くなったわけじゃなくて良かった。和泉守さんを見やれば、彼にとっても甘かったのだろう、湯飲みを大きく傾けてお茶を飲み干すと、「かーっ、甘いなぁこれ……!」と零した。

「そんなに甘いの?」
「ん、ああ、甘い。甘い以外に言いようがないくらい、甘い」

和泉守さんが断言したことで、なんだか興味が湧いてしまった。染みるほどの甘さとは、一体。じ、と残った最後の一つ、堀川くんのお団子を見ていると、上から「止めとけよなまえ」と声が降ってきた。顔を上げれば、呆れた顔の同田貫さんが私を見下ろしている。

「俺たちの疲れが一気に回復するくらいなんだから、あんたが食べたらどうなるかわかったもんじゃねえぞ」
「うぉ……。やめときます」
「そうしとけ。甘いもん食いたいなら、自分で作るか厨番に頼んでみるのが一番だろ」
「はーい」

僕が作りましょうか、と聞いてくる堀川くんには、また今度お願いするね、と断っておいた。流石に出陣疲れのところに私情で追加のお仕事を頼むのは気が引ける。

「ああ、そういえば」
「ん? どうしたの堀川くん」
「次の新しい刀剣男士、確かスイーツ作りが趣味なんですよね? 来たらお願いしてみませんか」
「……うん、うん。来たらね……」

脳内に思い浮かべるのは、実装告知がされた小豆長光さん。ただし政府から配られた予定表によれば、里の次は期間限定鍛刀だ。

「国広……うちで鍛刀はあまり期待できねえと思うんだが」
「三池派の時はきてくれましたし、可能性を捨てたら終わりですよ、なまえさん!」
「ありがと堀川くん……がん、頑張るね……」

ふわりと甘さを風に乗せて、秋は少しずつ深まっていくようだった。
……とりあえず、資材数の確認はしておこうかな……!
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