長兄の話


「戦力! 拡充計画ー!! 待ってろ亀甲さん!」
「張り切ってんなー、なまえ」

からからと笑うのは貞宗くんだ。なんせ、戦力拡充計画で亀甲さんが手に入る日を今日か明日かと待ち続けていたのだ、ハイテンションにもなろうというもの!

「そういや俺も、白銀台じゃなくて戦力拡充計画で見つけたんだったよな」
「そうなんだよね。今のところ戦力拡充計画は全部拾ってきてるから、今回も来てくれるといいなーって」

まあその分、鍛刀で新人さんとご縁結ぶのは苦手なんだけども。長船派、お迎えしたかったな。

「ちょっと経験値多くなったかな。早い敵も居るし槍は固いけど、まあ君たちなら大丈夫でしょう」
「おう、任せろ! きっちり兄貴探してくるからな!」
「頼もしいー!」

きゃっきゃと戯れているところに、「なまえさん」と部屋の外から声が掛かる。堀川くんの声だ。どうしたの、と聞くと、障子戸の向こうからひょっこりと顔が見える。

「物吉くん、帰ってきましたよ」
「わ、ありがとう堀川くん! 貞宗くんも一緒にお迎え行こうか!」
「おう! 兄さんどんな格好になったんだろうな!」

ぱたぱたと玄関に向かえば、ふわりと色素の薄い髪が見える。身に纏うのは、白の服には眩しい色合いの鎧だ。ああ、徳川の。

「お帰りなさい、物吉くん。長い修行お疲れ様でした」
「ただいま帰りました! 主様に、もっと幸運を届けますね!」

ああ、修行に出る前も笑顔が素敵だったけれど、ますます笑顔が眩しくなって……! 貞宗派は光属性って誰かが言っていたけどあながち間違っていない気がする。

「お帰り、物吉くん。蜻蛉切さんたちが待ってたから、顔を見せに行ってあげてね」
「ありがとうございます、堀川くん。太鼓鐘くんも、ただいまです」
「お帰り、物吉兄さん! ド派手になって帰ってきたな!」

堀川くんと貞宗くんと戯れる物吉くん。ここが楽園かな。
口元を手で押さえて悶えていると、なまえー! と名前を呼ばれて腰に衝撃が来た。おうふっ。

「手入れ終わったぞ! 出撃するんだろう?」
「包丁くん。もう良いの?」

駆けてきたのは包丁くんだ。包丁くんは私を見上げて「勿論だぞ!」と力強く頷いてくれた。頼もしい。

「包丁くん!」
「お、物吉。お帰りなんだぞー。……うんうん、物吉も家康公の鎧似合ってるじゃないか!」
「えへへ、ありがとうございますっ。ますます幸運を運んじゃいますよー!」

ああ、そういえばこの二人は家康公繋がりだった。気の置けないといった二人のやりとりがまた聞いていて微笑ましい。

「包丁の手入れ終わったなら、俺も部隊のみんなを呼んでくるかな」
「お願いするぞ太鼓鐘! 俺はここで待ってるからな!」
「はいはい。あんまりなまえに迷惑かけるんじゃねえぞー」
「俺を何だと思ってるんだー!」

ぷくりと頬を膨らませる包丁くんだけど、きっと二人にとってはじゃれ合いみたいなものなんだろう。さて、包丁くんを隊長とした部隊のみんなが揃えば、戦力拡充計画、再開だ。

手入れ部屋の様子を見たり、夕飯準備の進み具合を確認したり、帰ってきた物吉くんの様子を見たりしていれば、こんのすけが包丁くんたちの帰りを教えてくれた。急いで門に向かうと、怪我は負っているがみんな無事に帰ってきたことが分かる。お帰りと声を掛ければ、真っ先に包丁くんが抱きついてきた。

「うわっ、と」
「ただいまー! なまえ、褒めて!」
「うん? お疲れ様?」
「こぉーら、包丁。なまえが困ってんだろ」

こつん、と包丁くんの頭を軽く叩いたのは後藤くんだ。包丁くんはすぐに後藤くんに向かって「褒めてもらうくらい良いだろー!」と噛み付いている。

「だから、褒めてもらう前に確認してもらわねえとだろ」
「むー」
「確認?」

後藤くんの言葉に私が首を傾げていると、貞宗くんがはい、と一振りの刀を差しだしてくる。

「兄貴だ。顕現させてくれねえか」
「!」

慌てて受け取り、力を込める。桜吹雪の中に、白いマントと黒い裏地が翻った。

「ぼくは亀甲貞宗。名前の由来? ……ふふっ。ご想像にお任せしようか」
「亀甲さん! よろしくお願いしますね!」
「おや、随分熱烈な歓迎だねえ」

眼鏡の奥、灰色がかった瞳を緩ませて、亀甲さんは笑った。美人さんだなあ。

「っと、そうだ。あなたの隣に居る彼、青いマントの彼が太鼓鐘貞宗くん。同じ貞宗派で伊達縁の子。それと、もう一人徳川縁の貞宗派の刀が居るんだよ」
「おや。じゃあ僕で貞宗派は三人目だね」

もう一人はあとで紹介するね、と言う前に、玄関の扉が開かれて声が聞こえた。

「なまえさん、桜吹雪が見えたけど、新しい刀剣男士が来たんですか、……って」
「ああ、ちょうど良かった。亀甲貞宗さん、来てくれたよ。亀甲さん、彼が、物吉貞宗くん。もう1人の貞宗派だよ。ちょうど今日帰ってきたばっかりだから、タイミング良かったねー」

にしても、物吉くんが帰ってきたその日に、貞宗くんが亀甲さんを連れて帰ってくるんだから、貞宗派は本当に仲良しさんだなあ。物吉くんが帰ってきたのが嬉しくて来てくれたのかな。そうだと良いな。

「んふふ、ここでの生活は、楽しいものになりそうだね」

ふわりと零れた亀甲さんの笑顔に、私も笑って答えた。
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