子どもの話


「毛利藤四郎と言います。……あれ、主さま、小さい子の匂いがしますね!」

開口一番、言い笑顔で言い切った毛利藤四郎くん、流石と思いました。


「いち兄にお聞きしたんですが、なまえさんは、小さい子たちの学舎でお仕事をされているとか」
「ああ、うん、そうだよ。だいたい短刀のみんなくらいの背格好の子たちが多いかな」

広間でのんびり午後のお茶時間を楽しんでいると、毛利くんが隣に座ってそう言ってきた。私はおかしをつまみながら、のんびりと答える。毛利くんとは反対の隣には、包丁くんが目の前に山と盛ったお菓子を口に運んでいた。

「いいなあ。小さい子がたくさんいて、なまえさんに寄ってくるんでしょう? 天国みたいですよね!」
「いやあのね毛利くん、あくまでお勉強するところだからね? 私仕事で行ってるんだからね、子どもと遊んでるわけじゃないからね?」
「ねえねえ、僕を懐に入れて、なまえさんのお仕事に着いていくことってできませんか!?」
「無茶言わないのー。改変の兆候のある過去ならともかく、私の住んでる現代に君たちは転移できません。原則ね」
「えー?」

ぷくりと頬を膨らませてむくれる毛利くんの頭を、ぐりぐりと撫でてやる。本人は小さい子が可愛い、と言うけれど、当の毛利くんだってなかなかに身長は低い組だ。うん。頭を撫でやすいのって良いな。
頬を緩ませていると、後ろの方から「毛利の言うことも分かるぞ!」と威勢の良い声が聞こえてきた。

「なまえさんの、もう一つの仕事場って、人妻いっぱいいるんだろ!? 俺だってついて行きたいぞー!」
「……包丁くん……」
「新妻もいるって聞いた!」
「包丁くん!!」
「今の俺なら人妻にモテモテだろうなぁー! ねえなまえさん! 俺を連れていかない?」
「いきません! 観光名所感覚で学校行こうとするな、もう……」

はあ、と大きなため息が出てしまう。若干疲れた私とは対照的に、毛利くんと包丁くんは楽しそうだ。

「いち兄は、七つ前の子もいると言っていました。絶対に可愛いですよね!」
「俺は新妻に撫でてもらいたいなあ。でも人妻に撫でてもらえるなら新妻じゃなくてもいいかなあ」

全然かみ合ってないけど双方笑顔で話している。本人たちの間では会話が通じているんだろうか。粟田口テレパシー的なやつだろうか。小さい子と人妻好きで波長が合うんだろうか。いち兄助けて。

「でもなまえさんの時代には行ってはいけないんですよねえ。手の届く場所に天国があるというのに、行ってはいけないだなんて、政府も意地悪です!」
「そうだそうだー! 俺だって人妻に撫でてもらいたいぞー!」

政府が意地悪かどうかはともかく包丁くんの言葉は結構ぐっさり刺さるのでやめてください。泣く。泣きそう。
君たちそんなに色々言う元気があるなら出陣してこようか、と言おうと身体を起こしたところで、でも、と包丁くんが声を落として言った。

「考えてみろよ、毛利。主さんがいち兄と結婚するだろ?」
「待て包丁くん、どこからそんなに話が飛んだの」
「うんうん、続けて」
「こら毛利くん」
「いち兄と結婚したなまえさんは、人妻になる」
「いち兄のお嫁さんだね!」
「勝手に進めるな、こら!」
「人妻になったなまえさんが、いち兄の子どもを産むだろ」
「包丁、まさか……!」
「俺は人妻に撫でてもらえる、毛利はなまえさんの子どもを可愛がれる!」
「包丁天才!」
「こらあああああ! 勝手に人の人生設計しなさんな!」
「そうと決まれば早速いち兄に相談だー!」
「相談だー! 僕、なまえさんといち兄の子ども楽しみにしてますねっ」

ばたばたと、慌ただしく広間を出て行く小さな二つの背中を、呆然と見送ってから、はっと我に返る。ああもう、本当に好き勝手言って!

「一期一振ー! 一期さああああんっ!!」

とりあえず今の私にできることは、あの2人より先に一期さんを見つけることだ!
のどかな夏の本丸に、荒く床を蹴る三つの足音が響いている。あとで歌仙さんに怒られるだろうなあ!
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