賑やかな話


秘宝の里にこれでもかと出陣した結果、何とか小烏丸さんをお迎えすることが叶った。確定報酬万歳である。
日本刀の父、と公言するほど古い刀だけれど、残念ながらこの本丸では一番の新入りさんとなる。早く皆に追いつかねばな、と苦笑いをしていたが、きっとすぐに追いつくだろう。
今日は乱くんと組ませた畑仕事で、内番衣装を汚しながらもくもくと仕事をこなしている。黒の内番衣装は、この時期ならきっと光をたっぷりあつめるので暖かいだろう。とはいえ、気温が低く、寒いのに変わりはない。

「乱くーん、小烏丸さーん、そろそろ休憩しませんかー?」
「ああ、もうそんな時間か、主?」
「やったー、おやつだね!」

いの一番に駆けてくるのは乱くんで、後ろからのんびり歩いてくるのが、小烏丸さんだ。軽く汚れをはたき落としてから、沓掛石に靴を置いて縁側へと上がってくる。床から伝わる冷たさに、乱くんが「ひゃっ」と悲鳴を上げた。

「さっむーい! もう! 冬はこれだから嫌い!」
「濡れ縁はどうしても冷えるからねぇ……。だけど、冬だからこその楽しみもあるわけだよ、乱くん」

三人揃って廊下を歩き、障子を開ければ広間に設置された多くのこたつ。今年の春先に片付けてから、また人数が増えたので、一つばかり大きいのを追加したのだった。今もちらほらと、仕事の合間に暖を取りに来たらしい人影が見える。
こたつー! と叫んで、乱くんが近くのこたつ布団をめくり上げ、滑り込んだ。その機動は流石極と言いたいレベルだ。寒いからな、よく分かる!

「ほらほら、小烏丸さんも、入ろうよ!」
「ああ、では、邪魔させてもらうとするか」

乱くんに促され、のんびりとした足取りで、小烏丸さんは彼の隣へと座った。やはりこたつは温かいな、と、目許と頬が緩んでいる。さて、と私が厨へ向かおうとしたところで、「なまえ」と名前を呼ばれた。声のした方へ顔を向ければ、廊下を歩いてくる鶯丸さんと鶴丸さんを見つける。
鶯丸さんが手に持っているお盆には、いくつかのお椀が乗っていて、ふわふわと白い湯気が見えていた。

「鶯丸さん。鶴丸さんも。なにかあった?」
「いや、なに。光忠から預かってきたのでな」
「?」

鶯丸さんの言葉が飲み込めず、首を傾げると、鶴丸さんが補足するように続けてくれた。

「きみ、さっき厨に顔を出しただろう? それを見て、もうすぐ内番に休憩を入れるだろうから、持って行ってやってくれないか、とな」
「寒い中、行き来するのは辛いだろうから、と言っていたぞ」
「……もー、なんだろう、流石光忠さんって言うか……敵わないなあ」

完全に行動パターンを読まれている。二年近く一緒に居れば、そんなものなのなのかもしれない。
部屋に入ってきて、今日のおやつはぜんざいだ、と言う鶯丸さんに、乱くんが喜んだ。

「ぜんざいか、初めて食べるな」
「小烏丸は、大抵の物が初めてだろうなあ」

からからと笑う鶴丸さんが、お盆の上からひとつ、お椀を取って小烏丸さんの前へと置いた。つやのある小豆の間から、白いお餅がぷかりと半分ほど、顔を見せている。

「甘い物が苦手じゃなきゃ、きっと気に入るぞ」
「そうか。では、いただくとしよう」

木で出来た匙を手に、小烏丸さんがぜんざいへと口を付ける。一つ一つの所作が、見惚れるほどに美しい。
ず、と音を立てて汁を啜ると、小烏丸さんの目が見開かれた。こくりと飲み込んで、口元をふにゃりと緩ませる小烏丸さんは、なんだか可愛らしく見える。

「おお、甘いが、うまいな。主、夕飯はこれが良い」
「それはやめよう、小烏丸さん」

流石にそのお願いは聞けないかなー! 間髪入れず却下を言い渡せば、小烏丸さんの眦が下がった。そんなに残念か。もう。

「……近日中に、また作って貰えるよう、おやつ当番に言うから、それで我慢して貰える?」
「またぜんざいが食べられるのか? なら、それで良い」

よろしく頼むぞ、なまえ、と微笑まれ、あっこれお願いが通ると確信した問いかけだったな、と気付くがもう遅い。後ろで鶴丸さんが爆笑している。

「あっはっはっはっは! 君は俺たちに甘いからなあ、なまえ!」
「うー……!」
「もう小烏丸に性格を見抜かれているな、ああそう拗ねるな、なまえ」
「拗ねてないですー! あっちょっ頭撫でるの止めて鶯丸さん!」

わっしゃわっしゃと髪が乱されるのを止めようとしても、撫でられるのは止まらない、どころか鶴丸さんまで加わるし、果てにはこたつから抜け出して乱くんも「ボクも混ぜてー!」と言ってくる。おいやめろー!

「なかなか賑やかなところだな、ここは」

小烏丸さんが、こちらを見て満足げに笑った後、ずず、とぜんざいを啜った。私を見る目が完全に他の刀剣達と一緒、っていうか、娘を見るようなそれだったのは、きっと勘違いだと思いたい、思わせてください!
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