やっと会えた話


「今日も貞ちゃん探すよー!!」
「おー!」

光忠さんの元気いっぱいの声援を受けて、今日も今日とて捜索演習に繰り出す。マスは埋め終わった、あとは貞ちゃん君を捜すだけだ……!

「えーっと、編成はいつも通りで行くよ。隊長は、そうだな、御手杵くん行けるかな?」
「んえ、俺かぁ?」
「そうだよ君だよー」

のんびりとおせんべいをかじっていた彼に声を掛けて、部隊を組んで貰う。御手杵くんを隊長に、極の3人、鯰尾くん、骨喰くん。勿論粟田口勢には遠戦刀装を持たせることも忘れない。
演習場のレベルは大体把握してきたので、彼らに任せておけば、大丈夫だという確信がある。大きな怪我をすることもないだろう。

「……さて」
「ん、どうしたの、なまえちゃん?」
「いや、ちょっと……」

急を要する事が起きたら連絡を頂戴、と言付けて部隊を送り出し、私は自室へと戻った。貞ちゃん捜しも勿論優先すべき仕事だが、リアルのお仕事もしなきゃ行けないのが兼業審神者の辛いところでな……!

「だったらもう向こうの仕事辞めて審神者に専念しようよ?」
「おっと?」

ぐっと拳を握りしめて、大げさに言ってみればとんでもない言葉が返ってきた。からから、冗談だよ、と笑う光忠さん。……声色がちょっと本気だったね? ねえ? おい?
まあそれはともかく、貞ちゃん捜しは彼らに任せて、私も私で仕事をやるのだ。と、パソコンに向かって持ち込み仕事をこなすことにした。
心地よい秋の気配が漂っているからだろうか、いつもよりも随分と集中して仕事に取り組めている気がする。脇目もふらずに仕事に向かっていた私がふと時計を見れば、長針は一周を過ぎていた。

「んー……」
「一段落ついた? 随分集中してたね」
「うーん、まあ、涼しくなったしねぇ、この時期の朝って仕事捗る気がする……」
「でも平日だとそうは思えないんでしょ?」
「それは言わないでー」

ぐうっ、と伸びをする私に、光忠さんはお茶を持ってきてくれた。うん、この時期はお茶も美味しい。段々秋が近づいてくるのを感じて心が弾む。食欲の秋? 何とでも言うが良い。秋は美味しいのだから仕方ない!

「っと、そろそろ御手杵くんたちが帰ってくるかな」
「あ、もうそんな時間か……。特に連絡無いってことは、今回も無事踏破できたかな」
「だろうね。お迎え、行こうか」

光忠さんの言葉に促され、玄関の方へ赴こうと、仕事の片付けをしていると、ばたばたと廊下を走る足音が聞こえた。

「あれっ、もしかしてもう帰って来ちゃったかなぁ」
「みたいだね、にしても随分慌ただしいような……」

首をひねる光忠さんを見ながら、私も片付けの手を早めたが、自分の作業よりも、彼らがこちらに辿り着く方が早かった。

「なまえ! 帰ったぞー!」
「お、御手杵くん! おかえり、……なさい?」
「ああ、ただいま!」

にかっと、眩い笑顔を向けてくれる御手杵くん。にしても、ずいぶんと浮かれているような。
ご機嫌な御手杵くんをぼんやり見ていると、彼の後ろから、前田くん、五虎退くん、秋田くん、鯰尾くん、骨喰くんが顔を出す。一斉に唱えられるただいまに、私もたじたじになりながら、おかえりと返した。あ、少し怪我してる。
私の返事を聞いてから、御手杵くんは私の前に一振りの刀を差し出す。長さは短く、一目見て短刀だと言うことが分かる。だが、その装飾に、私は見覚えがない。
隣で、大きく気配が揺れる。見上げれば、目を見開いて、御手杵くんの手にある短刀を凝視する光忠さん。
……ああ、ならば。
すこしだけ震える手で、短刀を受け取り、力を込める。空気が渦巻いて、桜の色味を帯びた。

「待たせたなぁー皆の衆! へへへ。なーんてね。俺が、噂の貞ちゃんだ!」

待っていた。いつかと、彼と話しながら。
……本当に、待っていた。

「さだ、ちゃん……」
「お、みっちゃん! へへへ、久しぶりだなー、会えて嬉しいぜ!」
「……ああ、さだちゃん。……さだちゃん、ふふ、ようこそ」
「おう、よろしくな、みっちゃん!」

にっ、と、白い歯を見せ笑う、太鼓鐘貞宗の姿が歪む。主君!? と慌てて駆け寄ってきた、前田くんの言葉で、どうやら自分が泣いているらしいことを知った。

「……ふふ、ありがとうね、御手杵くん、みんなも。お疲れ様」
「ん? まあ、俺たちはいつも通り戦ってきただけだからなぁ」
「それでも、お疲れ様に変わりはないよ」

眦の涙を拭って、改めて太鼓鐘貞宗……貞ちゃんに向き直る。光忠さんが、とん、と軽く、貞ちゃんの背を叩いて、私の方を向かせた。

「えっと、あなたが主?」
「……うん、……うん、主です。ようこそ、太鼓鐘貞宗くん」
「なまえちゃんって言うんだよ」

光忠さんから私の名前を聞くと、ふんふんと頷いて、よろしくな、なまえさん! と快活に挨拶をしてくれる。随分元気な子だ、と、数度のやりとりでもよく分かる子だった。
本当に貞ちゃんがいるんだなあと、感慨に耽っていると、彼は私の方へと歩いてきて、ぎゅっと手を取った。
溢れんばかりの笑顔を浮かべて、彼は言う。

「随分俺を待っててくれたんだろ? 俺を顕現してくれたときの力、すげぇ暖かかった! ありがとな、俺を、待っててくれて。みっちゃんに、会わせてくれて!」

ただただ嬉しそうに笑う彼に、私はもう、言葉にならなくて。
気持ちのまま、目の前の彼に抱きつけば、驚きながらもゆるりと抱きしめ返されて、また少しだけ、泣いた。
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