ゆかりの話


夏場はどうしてもだらけてしまう。休みが続けばなおさら。
新しい刀剣男士の実装だよー! と、連絡は来ていたものの、暑さでばてている私には、どうも腰が重い。一週間は期間があるのだし、そもそも前回の数珠丸さんの件、並びに三日月さんを鍛刀するまでにかかった時間を考えれば、まあ来ないだろう、なんて思ってしまう。モチベーションが上がらないから、自然と、本丸から足が遠のいてしまっているのもまた、事実だ。

「それなら、休みの間ずっとこっちで過ごせば良いだろう、なまえ? 向こうより涼しいし、俺たちもなまえと過ごせる時間が増えるからな、喜ぶ奴らも多いと思うぞ」
「うーん、それはとっても魅力的なお誘いではあるね……」

だらだらと、汗が滑り落ちるのを手で拭いながら、燃えさかる火に玉鋼が放り込まれる様子を眺める。式神さんはともかく薬研くんまで汗一つかかず涼しい顔してるのはなんなんだろう。付喪神七不思議ってやつだろうか。
結局、ほとんど昼まで寝て過ごし、昼食を食べ終えてからのっそりと本丸に赴いた。近侍の薬研くんを連れ、鍛錬所へと向かう。ぽいぽいと資材を放り込むが、めぼしい数字は見えない。

「数珠丸さん一本狙いでも難しかったのに、今回は二本だものなあ……」
「そう腐るな、大将。陰の気を出してりゃ、来るものも来ないぞ」
「あう」

ぱしりと、小さくも力強い手が肩を叩く。薬研くんは、藤色の目を緩めて私を見ていた。ああ、これ、駄々こねる弟を見る目と一緒だ……あれっ?

「袖振り合うも多生の縁、ってな。縁があれば、今回会えるだろうさ。俺たちみたいなものには、特にな」
「縁、かあ……」

薬研くんの言葉を聞いて、私はふと思い出す。そういえば彼らの刀派、三池は地名だ。聞き覚えがあると思って調べてみると、やはり知った三池の土地だ。刀匠である光世さんが三池に住んでいたことから、三池光世と呼ばれ、また刀派を三池派と言う。実際に訪れたことも何度かあった。知らずに鍛冶場の近くを通ったことがあるかもしれない。
その昔、身近な土地に、天下五剣を打った刀匠が住んでいたのかと思えば、まさにこれは彼の言う「縁」ではなかろうか。

「案外、ご近所さんってことで簡単に来てくれたりしてね」
「ああ、そうかもな」

唇の端を釣り上げる薬研くんに、私も頬を緩ませる。うん、暗く考えるよりはよほど良い。浮上した気分のまま、先ほどと同じ量の資材を式神に渡す。式神さんが意気揚々と玉鋼を熱し始めれば、上方に掲げられた掲示板に、鍛刀終了までの目安時間が表示される。

「へーよじか……。……4時間っ!?」
「おっと、こりゃ本当に縁が結ばれたか?」

いやまて、落ち着け。この分量は太刀レシピだ。4時間なら三日月さんや小狐丸さんの可能性も無きにしも非ずだ。うううん、と唸るも数秒。ええいままよと手伝い札を叩きつける。
掲示板の数字が見る間に減り、あっという間に0になる。完成した刀は──、見覚えが、無い。ぞくりと震える手で、鞘に触れれば。

「……天下五剣が一振り。大典太光世だ。あんた、俺を封印しなくていいのか?」

重たげな声が、耳朶を打つ。縁って本当にあるんだなあと、変に感心してしまった。

あっちなみに封印はしないです他の刀たちとレベルが並ぶまで頑張って貰います! と言うと溜め息つかれて「変な主のもとに来てしまったな……」としみじみ言われた。どういうことだ!

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