君を待つ話


「みっつったっだっ、さーん!」

かつて聞いたことのない、どこまでも喜色ばかりを浮かべたなまえちゃんの声に、僕の手は自然止まってしまった。


今日の僕は、洗濯当番を割り当てられていて、今は鶴さんと一緒に衣類を畳んでいたところだった。相変わらず数が多いと大変だなあ、と息つく暇もなく、「取り込んできたぞ」、と追加の衣類を持ってくるのは大倶利伽羅だ。
大倶利伽羅も手伝ってよ、と口を開こうとしたところで、冒頭のなまえちゃんの声である。そういえばそろそろ彼女が来る時間だったか、と思ったのはほんの一瞬。今にも飛んでいきそうなほど地に足の付かない声を聞いて、驚きに固まってしまう。

「おいおい、なまえがあんなに浮かれてる声、初めて聞いたぞ?」
「ああ、珍しいね……?」

もともと、表情を隠さない子だったけれど、それにしては随分と浮かれきっている。驚きをもたらそう、なんて言っている鶴さんですら、手を止めて呆然としていた。大倶利伽羅は、抱えていた衣類をどさりと落とした。あっ、しわになる!
僕たちの驚きや困惑をよそに、たったった、と声に倣うように軽い足音は、段々と僕たちのいる部屋へと近づいてきた。誰かに、僕がここに居ることを聞いたんだろう。この足音の持ち主なんて、僕はよく知っている。

「みっつたっださー、あれ、大倶利伽羅さん? どうしたの?」
「……いや」

困惑の原因に声を掛けられたことで、我に返ったらしい大倶利伽羅が短く言葉を発する。予想通り、大倶利伽羅の隣に立つのは、僕らの主、なまえちゃんだ。大倶利伽羅の様子に首を傾げていたが、部屋の中を覗き込むと、僕を見つけてだろうか、ぱっと笑顔を浮かべる。
ああ、かつてないほど、この笑顔は。

「良かった! 鶴丸さんも居たんだねー! えっと、光忠さんと、鶴丸さんと、大倶利伽羅さんも居た! よし!」
「……なまえちゃん? 何が良しなのかな?」

ご機嫌もご機嫌な彼女に、僕は静かに問いかける。すると彼女は、後ろ手に持っていた紙を、ばっと突き上げるようにして掲げた。

「太鼓鐘、貞宗のっ、実装が! 発表されたよ!」

瞬間、部屋に一切の静寂が落ちる。主は、なまえちゃんは、得意げに笑っている。
ああ、今、彼女は、何と言った?


「……貞ちゃん、が? くる?」
「絶対に来る、わけじゃないけどね。確定イベントかドロップかもまだ分からないけれど。……ただ、会えるようになった、っていうのは、確実だよ」
「――っ!」

くしゃりと、手に持っていたタオルを強く握りすぎて、しわになった気がしたけれど、そんなもの些細なことだと、心が言う。

「……貞ちゃん、に、会える?」
「うん。会える。会わせてあげる。……と言っても、どんな形であれ、みんなに頑張って貰わなきゃいけないのが、悲しいところではあるんだけどね」
「いいよ、それくらい。会えるなら、僕は……、ぼく、は」

ああ、もう。
何を言えば良いのだろう。どう言えば、今の気持ちを表せるのだろう。
言葉に詰まる僕の背中を、鶴さんが軽く叩く。ぶっきらぼうな手つきで、大倶利伽羅が僕の頭をくしゃりと撫でる。

「貞ちゃんに、会いたいなあ……!」
「待ってたもんね、ずっと」

情けなく震える僕の声を、彼女は嬉しそうに聞いてくれる。
ああ、ああ。早く、君に会いたいよ、貞ちゃん。


追記
「ということで、初ボスマスで貞ちゃんに会いたすぎて真剣必殺までしてくれた光忠さんはこちらです」
「新しいステージ強すぎない!?」
「いやあ、金盾ぼろっぼろだな! あっはっは!」
「鶴さん楽しそうだね!?」
「なお貞ちゃんは」
「見つかりません!!!」
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