見つけたよの話


「さーて今日も頑張りますよー」

今日も今日とて捜索だ。天下五剣を探すべく、隊の編成を考える。といっても、メンバーはほぼ固定だ。ちなみに隊長を任されている清光くんは、数珠丸さん捜しだけでレベルが20は上がった。カンストも目の前だ。

「最後の1人には日本号さんに入って貰おうかな。お願いするね」
「おう、任されたぜ」

がしゃり、と槍を構えて日本号さんは唇の端を釣り上げた。強気な笑みが頼もしい。門の前に集まった、清光くん、骨喰くん、鯰尾くん、堀川くん、歌仙さんを順に見て、状態を確認する。うん、みんな気合い十分だ。

「じゃあ、今回はこの6人だね」
「了解っ。じゃあ行ってくるね、なまえ」

大きく手を振って、門に向かう清光くんに、私も手を振り返す。……この背を見送るのも、何度目だろうか。いや、うじうじしていても仕方がない。行かなければ、見つからない。見つからなければ、行くだけだ。

「しかし、戦意高揚が保てるから凄いよなぁ、本当……」
「そこはやっぱり、人ならざるもの、ってことなんだろうね」
「って青江さん、いつの間に」

ひらひらと、彼らの背に舞っていた、淡い桜の花びらを思い出す。割と均等に誉を取ってくるものだから、脇差・打刀組は基本的に疲れ知らずだ。まだ行ける、と意気込む彼らに私の方が寝かせてくださいと言うことも数知れず。まあうん、やる気があるのはいいことだ。
そんなことをつらつらと考えていたら、口に出ていたらしい。零した言葉を拾ったのは、いつの間にか現れていた青江さんだった。私の問いかけに、青江さんはにこりと笑うばかり。うーん、これは答えてくれないやつだ。

「さ、ここで立っていても、何もならないよ。きみはきみの仕事があるだろう?」
「おっとそうだった……」
「彼らが帰ってくるまでに仕上げないと、歌仙くんに怒られてしまうね」

それは怖いなあ、なんて軽口を叩きながら、青江さんと一緒に自室に向かう。庭の木々はすっかり青い葉を生い茂らせ、風には湿っぽい熱が含まれるようになった。

「初夏だねー」
「ああ、もうそんな季節だね」

春の陽気はあっという間に熱に変わる。そろそろ衣替えすべきかな。みんなの分の夏服、どこにしまったっけ。簾の準備、はまだ早いかな。じっとりとまとわり付く空気の中、私は足を動かした。
報告書、とは名ばかりの日報のようなものを手早く書き終え、本丸の手伝いに向かう。50人も越える大所帯となると、人手もあるが仕事も多い。ちょうど部屋を出たところで、洗濯物籠を抱えた虎徹兄弟と蜻蛉切さんと次郎さんと山姥切くんに出会ったので、そのまま洗濯物干しを手伝うことにした。

「やっぱり、53人分ともなると、多いねー……」
「ま、しょうがないよねえ」

からからと笑う次郎さんは、ほいほいと大きめのものを高い位置に干していく。ぐぬぬ、その身長が羨ましい。私は大人しく、浦島くんと一緒に細々したものを低い位置に干していくばかりだ。適材適所! 大事!
次郎さんの隣では蜻蛉切さんが、同じように高さのいるものを干している。少し奥では長曽祢さんと蜂須賀さんが衣類を干しているみたいだ。私たちから少し離れたところには、青江さんと山姥切くん。白い布が二つ揃ってはためいている。

「なまえさんっ、俺たち次はいつ出陣できる?」
「そうだね、じゃあ清光くんたちが帰って来たら、そろそろ行こうか。最近ばたばたして、清光くんたちしか出陣できなかったもんね」
「やっりぃ! 約束だよ、なまえさん!」

一緒に洗濯物を干していた浦島くんが、わくわくした目で見てくるので、次の出陣を提案すると、浦島くんは飛び跳ねんばかりに喜んだ。ううん、可愛い。ぎゅっ、と握られた手がじんわり温かくなる。
そういえば、極の情報も少し出ていたし、ここらで一気に短刀・脇差を育てよう。演習場はとても助かる。京都市内だと、レベルが低いうちは遠戦で一発退場もありうるし。
じゃあ編成は、と次の洗濯物に手を掛けながら考えていたら、懐に入れていた端末が電子音を鳴らす。慌てて端末のボタンを押せば、割れんばかりの声がスピーカーから響いてきた。

「なまえーーーっ!!!!!」
「うわぁ!?」

驚いて端末が滑り落ちたのを、浦島くんが間一髪で受け止めてくれた。

「どうしたどうした、やけに騒がしいじゃないか」
「今の声は、加州か?」

あまりの音の大きさに、次郎さんや山姥切くんが寄ってくる。

「珍しいね、彼がここまで声を荒げるなんて」

蜂須賀さんの指摘に、私は頷いた。浦島くんが少し端末のボリュームを下げてくれたのか、清光くんの声は聞こえているけれど、先ほどよりは随分と小さくなっている。よくよく聞いても言葉が掴めないのに困惑していると、ごすり、と重い音が聞こえた。……あっこれ多分清光くんがお口チャック(物理)されたやつ。
かちかち、と端末の音量を少しだけ上げると、あー、と低い音が聞こえた。日本号さんかな。

「なまえ、聞こえてるか?」
「あ、うん大丈夫だよ。さっきの……清光くん?」
「ああ。わりぃな。あいつの気持ちも分からんでも無いが……。とりあえず、今から帰るぜ」
「はい、お疲れ様。怪我とかしてな……あれ、切れた」

それほど急ぎだったのだろうか。いつもなら勝手に切られたりしないけれど。ううん、と首を傾げていると、青江さんは「何にせよ、迎えに行こうか」と言った。俺も行く、と横から手を挙げてきたのは、浦島くん。

「俺の分は終わったからさ、一緒に行って良いかな」

それは、と他のみんなを見れば、全員が構わないという表情だった。

「俺たちももうすぐ終わるからな、構わんさ」
「ええ、こちらはお任せください。それに、もし危急の事態であれば、人手が必要でしょう」

長曽祢さんと蜻蛉切さんの後押しを受けて、それじゃあ、と青江さんと浦島くんを連れて門へ向かう。確かに、声を荒げた清光くんに、子細を話さず通話を切った日本号さん、という状況は、もしかしたらとんでもないことが起きたのでは、とも思う。蜻蛉切さんに言われて初めて気付き、門へ向かう足取りは自然速くなった。
私たちが着くとほぼ同時に、門は部隊の帰還を知らせる。ふっと飛び込んできた清光くんは、私を見つけると真っ先に走って、……走って。

「なまえーっ!!」
「わぷっ!?」

……抱きついてきた。ぎゅうぎゅうと、苦しいほどに抱きしめられて、顔が服に埋もれて呼吸が苦しくなる。ばしばし、と清光くんの背を叩くが、彼はなまえ、なまえっ、と私の名を呼ぶばかりだ。

「ああ……なるほどねぇ」
「これは仕方ないね、青江さん」
「だね」

後ろからなんだか和やかな会話が聞こえてくるけど、私には何が仕方ないのか全然分からないんですが! ていうかそろそろ本当に息が。
と、唐突に清光くんが離れたが、何と言うことはない、後ろから歌仙さんが彼を引っ張っただけだ。

「加州、そろそろなまえが危ない」
「えっ……あ、ご、ごめんね!?」

ぜえはあ、と肩で息をする私に、清光くんは途端に慌てだした。大丈夫、と軽く手を振って答える。二度はごめんだけども……!

「ええと、とにかく、出陣先で、な、に……、が……」

ゆっくりと、顔を上げた私の言葉は、尻すぼみに消えていく。清光くんの後ろに立つ、歌仙さんの手に握られている、真っ白い鞘の日本刀。大きさは、彼が腰に帯びている刀身よりも長い──恐らく、太刀。
歌仙さんは頷き、ゆっくりと私に近づくと、その刀を差しだした。

「さあ、なまえ」
「──……!」

ゆっくりと、震える手で受け取り、力を込める。桜が舞い上がれば、掌中に刀は無く。

「私は、数珠丸恒次と申します。人の価値観すら幾度と変わりゆく長き時の中、仏道とはなにかを見つめてまいりました」

黒から段々と色素の抜ける長い髪。紺色の衣服に、特徴的なその数珠。二振り目の天下五剣、数珠丸恒次が、顕現する。

「数珠丸、さん……!」
「はい。あなたが、審神者ですか?」
「……、はい! お待ち、してました……!」

みんなも、ありがとう、と震える声で告げると、部隊の面々はふっと相好を崩した。とりあえず怪我してる人は手入れ部屋ね!

「よかったね、なまえさん」
「浦島くん……」
「へへ、今日はこれから数珠丸さんの歓迎会でしょ? だから、明日は絶対、俺を出陣させてね!」
「……うん、約束だもんね!」

浦島くんの頭をわしゃりと撫でてから、改めて数珠丸さんへと向き合う。

「ようこそ、我が本丸へ。審神者のみょうじなまえです。よろしくおねがいしますね!」
「……ええ、よろしくお願いします、なまえさん」

清光くんたちの帰還を知って、門へ来た人たちが、数珠丸さんを見てはにわかに沸き立つ。さあ、気合いを入れて歓迎会の準備だ!
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