成長の話


大阪城発掘、3人目。信濃藤四郎。

「……一期さん、もう大阪城買い取ろう?」
「さっそく博多に話を付けて参ります」
「ねえ落ち着いて2人とも!?」

まあ冗談なんだけど、とからから笑えば、光忠さんはかくりと肩を落とした。きみの冗談は本気に聞こえるよ、と言われた。うん、すいません。

「さて、それじゃあ恒例行事、ということで岩融さんと博多くんね。あとはそうだなあ、レベル上げたい人たちを中心に組もうかな」

度重なる、簡易版も含む大阪城の攻略に、博多くんのレベルもかなり上がってきている。また、戦力拡充計画や連隊戦など、検非違使の出現の恐れがない場面での活躍により、岩融さんも随分とレベルは上がっている。
さくさくと編成を伝えて、大阪城へと繰り出せば、やはりレベルの上がった彼らにとっては何の障害にもならないようだった。

「博多くんのお迎えの頃には、岩融さんもまだレベルが10あるかないか、くらいだったよなあ……」

まだまだ、上階層の敵にも歯が立たず、太郎さんたちの手を借りながら戦っていた頃。博多くんも、後藤くんをお迎えに行く頃はまだレベルが足りず、50階まで潜るには危険があった。

「それが今や、だもんね」

早々と走り30階を越える頃には、ぽつぽつと高速槍の出現も見られたが、岩融さんも博多くんも、高速槍が行動する前に決着を付けてしまっている。京都市中の高速槍より遅い、とはいえ、他の敵よりは段違いに早い槍よりも早く攻撃を繰り出すのだから、彼らの成長をしみじみと感じた。
疲労度を見つつ、部隊のメンバーを入れ替えながら50階まで進んでいく。槍に先手を取られることは本当に少なく、大きな傷も負わぬまま、部隊は無事目的地へと到達した。

「信濃ー、迎えに来たばーい、って、まだ顕現しとらんっちゃったね」
「ふふ、では、早く本丸に戻り、なまえさんに顕現して頂こう」
「楽しみだな!」
「ついでにねこばばー!」

博多くん、一期さん、厚くんが、見つけた信濃くんを手に緩やかな会話をしている。あと大量の小判をねこばばしちゃう博多くんは歪み無いしとても頼りになると思いました。本丸の懐事情は全てきみにかかっている。
颯爽と戻ってきた大阪城攻略部隊。多少の怪我もあるが、先に顕現だと言わんばかりに待ち構えている面々から、短刀を受け取る。ふわりと桜が舞い、赤毛が揺れる。

「俺、信濃藤四郎。藤四郎兄弟の中でも秘蔵っ子だよ」

思ったよりも穏やかな口調、爽やかな声。薬研くんに似ている、だなんて聞いていたから、てっきり彼と似たような性格をしているのだとばかり思っていた私は、少しばかり拍子抜けした。ああ、こちらも挨拶を返さねば、思ったところで、信濃くんが少しだけ首を傾けて、笑みを作る。

「よろしく、大将」

心の中で両膝ついて崩れ落ちた私は悪くない。
一人称俺、穏やかな口調に反して大将呼び! 思わぬところから狙撃を受けた気がした。
動揺を必死で押し殺しながら、ちょっと声が震えたかもしれないけれど、どうにか繕って信濃くんへと私も挨拶をする。

「……ええと、うん、よろしく。審神者のみょうじなまえです」
「なまえさん、だね。うん、俺、頑張るよ。秘蔵っ子だけど、本当に秘蔵しちゃわなくていいからね?」
「……っもおおおおいい子おおおお! 一期さん私頑張るね!!!」
「はっはっは」

うん、体裁なんて無かった。両手で顔を覆って叫べば、一期さんは軽やかに笑った。信濃くんはちょっと狼狽えていたけれど、「大将、面白い人だね」って博多くんと厚くんに話していたから多分大丈夫だろう。
賑やかな庭先に気付いてか、本丸の中からわらわらと人影が出てくる。信濃だ、久しぶり信濃、という声を聞きながら、さて歓迎会のメニューは何にしようかと、笑みを零しながら考えを巡らせた。
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