緊急任務の話.04


私たちが広間に戻った時には、既に半数以上の刀剣男士が戻ってきていた。私たちの後に、ちらほら戻ってくる面々も居たが、さほど時間はかからず、50振り全員が広間に揃う。

「さて、全員揃ったし、報告を聞こうかな。何か怪しいものを見つけた人、それから何か気付いたことがある人、挙手で」

端的な指示を出せば、いくつかの手がすらりと上がる。目についた左端から当てていくことにしよう。
まずは、今剣くんから。

「ぼくたちは、うらにわのかだんのそばで、こうろをみつけましたよ!」
「香炉、というと、もしかして真っ黒な香炉かな」
「はい! では、なまえもべつのこうろをみつけたんですね?」

今剣くんの言葉に、これはいよいよ香炉がキーアイテムなのだろう、と察する。こっちは歌仙さんの部屋で見つけたよ、と言えば、今剣くんの隣に居た岩融さんが、「ああ、だから最近歌仙たちの調子があまり良くなかったのだな」、と独りごちた。
ふむ、ついでだし、今香炉関係を洗い出した方が良いかもしれない。

「じゃあ、他に香炉見つけた人、先に話を聞こうと思うんだけど、居るかな?」
「あっ、僕も見つけました」
「俺も、見つけたぜ」

問えば、返ってきた声は二つ。物吉くんと、同田貫さん。他にないし、香炉は四つで確定だろうか。
先に手を挙げてくれた物吉くんから報告を聞くことにした。

「はい、僕は鍛刀部屋で見つけました。といっても、青江さんが、見つけてくれたんですよ」
「確かに、見つけたのは僕だけれどね。タイミングが良かった、と言うのかな? 彼が一緒じゃなかったら、もしかしたら見逃していたかもしれないね」

一息置いて、青江さんは言葉を続ける。

「鍛刀部屋の式神に、一つだけおかしなのが混じっていてね。どうにもよろしくない気配がしたから、切ったら、これだよ」
「切っ……!? だ、大丈夫だった、青江さん?」
「ああ、問題無いよ、今のところはね」

ひらりと、青江さんが見せてくれたのは、黒い紙のヒトガタだった。すぱりと切り離されているのは、青江さんが切ったからだろう。記された文字も綺麗に両断されているから、きっとあのヒトガタに効力は無いだろう。それにしても、鍛刀部屋の式神、か。
ふと、今日の鍛刀を行ったときの鍛刀部屋を思い出す。あの時、違和感を持ったのは、間違いじゃなかった。……もっと、追求できていれば、こんな事態には陥らなかったかもしれない。うん、今後違和感を覚えたらすぐに突き詰めることにしよう。

「このヒトガタが、恐らく香炉を持ち込んだのだろうね。香炉を守っていたようだから、あながち外れではないと思うよ」
「……なるほど。まず侵入されてた訳だ。ちょっとこの辺後で上に問い詰めたいな……。よし、じゃあ次、同田貫さん」

本丸は唯一安全地帯だと思っていたけれど、案外そうでもないのかもしれない。……ちょっと不安になったぞ……!
嫌な考えを振り払い、報告を聞く作業へと戻る。最後の香炉の報告は、同田貫さんだ。

「おう、俺は倉庫で見つけた。本丸の中にある方だ」
「中の倉庫、というと、障子とか簾とかをしまっているところか。あんなところに……」
「ま、他の物には手を付けられてねえみたいだったし、その辺は不幸中の幸いってやつだろ」
「うーん、となると、本当に、単に香炉を置いただけ、ってことか……」

歌仙さんの部屋、裏庭の花壇のそば、鍛刀部屋、倉庫。香炉の場所が出揃ったが、何一つ、共通点が思い浮かばない。頭をひねっていると、「なまえさん」、と名前を呼ばれた。

「何か思いついたの、前田くん?」
「はい。お話を聞きながら、香炉のあった場所に印を付けておりました」

隣で書記係を任せていた前田くんが、強ばった声で言う。その隣、平野くんが、ご確認ください、と見取り図を差し出した。ぱっと見て、その位置の異様さに気付く。

「正方形になるように、配置されている……?」

一目見れば、誰もがこの四つの丸を、順に直線でつなぎ、正方形を形作るだろう。そう思うほど正確に、四つの香炉は配置されていた。私が零した言葉に、広間が少しばかりざわつく。平野くんが、再び口を開いた。

「はい、恐らく四つの香炉は、その中にある何かを囲うためのものでは、ないでしょうか」

彼の推測が正しければ、この香炉に囲われた中央に、別の何かがある。もう一度、見取り図に目を落とせば、その場所はどこか、簡単に見つけることが出来た。

「書庫……戦績や資料をしまっている書庫を、囲っている……?」
「ああ、なるほど、そういうことでしたか」

私の言葉を拾ったのは、宗三さんだった。ぐるり、視線が集中したことで、彼は少しばかり居心地悪そうに、顔をしかめた。

「私たちは、部屋の確認が終わった後、その書庫へと、出向きました」
「そうしたら、なんだか壁に阻まれたように、入ることが、ううん、触れることすら、出来なかったから」

江雪さん、小夜くんが続けて報告してくれる。うん、なら、当たりだろう。

「ということは、まずこの香炉をどうにかしたら、書庫の結界が壊れる、かな? うーん、場所を動かしただけで結界って弱まるものかな……?」
「あっ、じゃあ俺が確認してくっばい! ちょっと待っとかんね!」

言うやいなや、博多くんが駆けていく。自慢の俊足ですぐさま帰って来た彼は、「駄目やった……」と若干しょんぼりして報告してくれた。

「なら、香炉を壊そう、なまえさん」

どうするか、と考える間もなく、石切丸さんがにこやかに提案してくれた。えっ、これ、いかにも禍々しいですけど壊して良いんです……? 壊したばかりに呪いが蔓延とか、そういうことないです?
不安になって尋ねれば、結界と呪詛は相反する作用だから、同じ呪具で二つの効力を掛け持ちさせることはないだろう、と言ってくれた。

「それに、香炉を移動させても結界が維持されている、ということは、香炉よりも恐らくその中に、仕掛けがあるはずです」

太郎さんの言葉が追撃となる。信頼している二人もこういってくれていることだし、うん、壊そう。そうと決まれば早い。それぞれに香炉を持ち寄って貰う。直接触れるのはやっぱり怖くて、箱ごと庭に放り投げて割ろうかと思ったが、その前に同田貫さんから金槌を手渡された。

「よ、用意良いね、同田貫さん……」
「ま、何かあったらその場でたたき割ってやるつもりで持ってきた」

だから盛大に割ってくれや、と唇の端を釣り上げて、不敵に笑う同田貫さんはとても格好良い。その笑みに答えるよう、私もにやりと笑い、手に持った金槌を、香炉に容赦なく振り下ろした。
がしゃん、と陶器の割れる音がして、香炉は形を崩す。ばらばらになった欠片の中に、白い紙が丸めて入れてあるのを見つけた。
香炉を持ってきたまま、近くに居た青江さんが、札を見て眉を下げた。これは、と小さく言葉が零れる。

「また、厄介なものが、出てきたねえ……」

どうやらまだまだ、解決には程遠いようだ。

緊急任務・本丸ノ異変ヲ解明セヨ!.04
- ナノ -