緊急任務の話.01


「あー、こんな日もたまにはいいなぁ……」
「はは、そうだね、たまにはね」

今日は何故か出陣に関する動作が全く反応しなかったので、仕方なく本丸の中で出来る日課のみをこなした。全く、緊急メンテか何かだろうか。何も告知はなかったのに。
なまじ早めに来てしまっただけに、時間が多く余ったので、みんなと遊んだり、あとはお料理したりと、なんだかのんびり過ごした気がする。帰りを惜しまれつつ、広間を後にして、足は執務室へと向く。光忠さんと、足下をぽてぽて歩くこんのすけと言葉を交わしていれば、執務室などすぐだ。

「じゃあ、なまえちゃん。また明日ね」
「うん、光忠さんも、ゆっくり休んでね。……さって、と」

こんのすけを一度わしゃりと撫でてから、パソコンを操作する。いつものように、帰還コードを入力して、後はあの不可思議な浮遊感が襲ってくるのを待つだけ……、待つ、まつだ、け?

「……こんのすけ?」
「はい、何でしょう?」

おかしいな、いつまで経ってもあの浮遊感を感じない。過去に一度、自室のネットが切れたときに同じような状況に陥ったけれども、またそれだろうか。まったく、おんぼろさんめっ。
こんのすけに声を掛け、確認をして貰う。あの時と同じように、こんのすけはざっと画面を眺め、こてり、こてりと首を左右交互に傾けた。

「おや……どういうことでしょう、接続不良は確認されませんね」
「えええ……?」
「少々お待ちください、政府のサーバーに確認を……きゃんっ!」
「こ、こんのすけ!?」

少しだけ上向きになったこんのすけが、突然何かに弾かれるように、火花を散らして床へと落ちる。慌てて抱え上げると、きゅるきゅると喉を鳴らしながら身体を震わせていた。

「ちょっと、どうしたんだい!?」
「わからない、けど……! こんのすけ、大丈夫?」
「ううう、はい、大丈夫で御座います……。申し訳、ありません、サーバーへのアクセスが出来ませんでした」
「出来なかった……?」

おかしい、こんのすけはクダギツネ、とはいえ、政府からの通達を一手に請け負う伝達機関でもある。こんのすけのアクセス権限は、実は審神者よりも高い。そのこんのすけが、サーバーにすらアクセスできない、という。

「もしかして、サーバー負荷とか?」
「いえ、違います……。"アクセス権自体が、存在しない"ようなのです……!」
「……ええ!?」

ショートしたのか、少しばかり逆立った毛を撫でつけながら、小さな身体を見れば、こんのすけは眦を下げながら、どうやら自分にも何がなんだかという感じで、それでも分かることを一つ一つ、丁寧に話してくれた。

「そもそもまず、自分が政府のサーバーへアクセスを掛けたところ、目の前に壁が突如現れたような感覚で御座いました」
「えっと、つまりそれは、政府からアクセスを禁じられた、ということ?」
「……いえ、どちらかというと、あれは、外への接触を拒まれた感覚に近く御座います」
「外への接触を……? つまり、"こちらから出られないように条件設定してある"ということ?」
「そちらの方が、近いかと」
「なるほど、つまり逆結界、のようなものということかな。どういう原理か、この本丸から外側へのアクセスが、逆結界によって全て拒まれていると」
「状況から推察するに、恐らくそれが正解でしょう」

光忠さんの補足に、さっと血の気が引く気がした。こちらから外側へのアクセスが全く不可能、ということは、つまり帰ることはおろか、助けを求めることも出来ない。政府側が何かしらの異変を察知して、こちらに働きかけがあればよいが、常駐も兼業も含めて審神者の数は膨大である。全体での異変なのか、私の本丸限定での異変なのかは判別しかねるが、気付いて助けが来る可能性は、微レ存ってやつだろう。

「……、どうにか、しないと」

こちらもあちらも、時間は平等に流れている。家族は今日から旅行で不在だが、明日には帰ってくる。明日の休みを越えれば、明後日からは普通に仕事もある。
持てる力を、知恵を、仲間を駆使して、この状況を、打開するしかない!



緊急任務・本丸ノ異変ヲ解明セヨ!.01
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