違和感の話.00


「こんばんはー。何とか今日は早く来れたかなあ」
「ああ、こんばんは、なまえちゃん」

光忠さんのお迎えの言葉を受けると、なんだか本丸に帰って来た、って気がする。もう実家よりもこっちの方が長いこと住んでいるような気持ちになってくる。不思議だ。

「今日もいつも通り、で良いのかな?」
「うん、日課をこなして、あとは明石さん捜しだねー」
「了解、いつもの通りに」

今日の予定の確認を軽く確認し、後は雑談に興じる。私が居ない間に何があったか、私が向こうでどんな生活をしていたか。私の居ない本丸でのみんなの様子は、意外な一面が聞けるので、実は毎回の楽しみだったりする。

「さて、じゃあ今日も鍛刀からやっていこうか、なまえちゃん」
「はーい」

資材数を決めて、鍛刀を行う式神へと渡す。式神さんは、きりっとした顔で頷くと、早速鍛刀作業に入ってくれた。忙しなく動く式神さん達を見ていると、ふとなんだか違和感を覚えた。

「……?」
「どうしたの、なまえちゃん?」
「んー、えっと、私の勘違いなら良いんだけど……、あの式神さん、なんだかこう、違和感があるって言うか……」
「そうかい?」

私が言ったことに、光忠さんは首を傾げた。ううん、やっぱり私の勘違いだろうか。それでも気になって、作業中の式神さんをじっと見ていると、どうにも視線が邪魔なのか、ちらちらと私の方を振り返った。……作業の邪魔をするのも本意ではないし、気になるけれど、確認は後にしよう。
鍛刀部屋を後にして、刀装部屋へと向かうことにした。道中、歌仙さんに会ったので、こんばんは、と声を掛ける。歌仙さんは、少しだけぼう、とした後、「ああ、なまえか」とどこか張りのない声で私の名前を呼んだ。

「歌仙さん?」
「すまない……どうにも最近、調子が上がらなくてね……」
「調子が?」
「ああ、なんだか、こう、気怠いというか……」

自分でもよく解っていないらしい歌仙さんは、首を傾げている。まあ、気にするほどではないさ、と笑ったが、念のため今日はお休みして貰うことにした。

「そこまでするほどでも無いと思うんだけれどね」
「念には念を、ってね! 元気になったらまたばりばり出陣して貰うし!」
「はは、なまえらしいな」

軽く笑んだ歌仙さんに手を振って別れる。さあ、刀装部屋へ向かおう、とおもったところで、ぱきん、と、硝子を割ったような音が聞こえた、気がした。とても小さな音で、もしかすると気付かなかったかもしれないと思うような、小さな音。

「……?」
「どうしたの、なまえちゃん?」
「今、硝子が割れたような音が……、光忠さんは、聞こえなかった?」
「僕? うーん、聞こえなかったけど……」
「私の勘違い、かなぁ……」

幻聴、の類だろうか。疲れてるのかなぁ……。

「まあ、気になるなら後で全部の硝子を確認してみようか。今日はなまえちゃん、早かったし、確認する時間はあると思うよ」
「そうだね、そうしようかな」

光忠さんの提案に乗る事にした。ひとまず、今日やるべき事を片付けてしまうことにしよう。


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