しばらくすると、目の前には少女の好きな紅茶を注ぎ入れられていた。


彼も壁にもたれながら一服する。




『フー・・・・、何??』

『柊矢って、タバコ吸ってたの??』

『たまに』


『タバコは20歳からだよ??』

『いーんだよ』


『まだ20歳じゃないよね??』

『しつこいぞ』


『ごめんなさい・・・』


『別に・・・、怒ってませんよ』

『もう、"丹栄君"に戻った・・・』


『ですから、先程も言ったように私にも仕事があるんです
わかってください』




お目付け役としての口調へと戻すと、机に置かれた書類に目を通していく彼。


シュンと落ち込む少女は、音を立てて紅茶を飲む。

行儀を悪くしても少女に構うことはなく、彼が言う"仕事"をすすめる。


そんな彼をボーっと見ていると、瞼が重くなり、いつの間にか眠ってしまう少女。




――−−




思い出の中の記憶。


目を開ければ、現実に引き戻され、寂しさが込み上げてくる。


不安な気持ちに押し負け、声を殺し、涙を流してしまう。




祐季「・・・フッ・・・・、・・・ッ・・・・」


仁「祐季??」

祐季「っ!?」




目が覚めたばかりで、仁王の存在に気づいていなかった祐季。

急に声をかけられ、今の状況を見られぬよう、布団の中に潜り込む。


否、彼を見てしまえば、縋ってしまいそうだったから。


そして、恐る恐る声を発する。




祐季「・・な・・・何で、まだ居るわけ!?」

仁「祐季が気になったからのぅ」


祐季「俺は、大丈夫だから、・・・・早く出て行けよ」


仁「わかったぜよ」




強気な発言をし、彼を部屋から追い出そうとする。

すると、素直に部屋から出ていく。


バタンッと閉まる扉の音を確認して、被っていた布団を退ける。




祐季「またっ、・・・・ッ・・・どう、して・・・」




こんなにも弱くなってしまた自分が情けない

自分から追い出しといて寂しいと思うなんて・・・


どうして、苦しいんだろう

どうして、涙が出てくるんだろう


その答えは知っている


貴方を今でも引きずっているから

貴方に見捨てられるのが怖いから


君に想いを移し、貴方を記憶の中から忘れてしまうのが怖い・・・




ベッドから体を起こすと、また流れる涙。

随分寝ていたらしく、窓からは夕暮れのオレンジ色の光が差し込む。

外はいつの間にか雨が止み、空は晴れていた。



 
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