次の瞬間には、突き放されていた。
突き放された衝撃で床に打ち付けた体の痛みと、
彼の突然の行動に驚きと不安からか、溜まっていた涙が溢れ流れていた。
『・・ッ・・・・フッ・・・』
『っ・・・・、泣くぐらいなら、初めから大人しくしとけ』
まるで先程の紳士とは別人のように、少女を荒っぽく扱う彼。
それでも、突き放された手を求めるように、彼の名前を呼ぶ。
『・・・柊・・矢ぁッ・・・』
『あー、もう!!わかった、わかった、俺の負けだ』(汗
今度は困った表情をしながら、彼女を優しく抱きしめる。
でも、少女の涙は止まらない。
『・・いやッ・・・・』
『悪かったって』(汗
『フッ・・・・ヤッ・・・』
『もう、あんなことしねぇーから、な??』
『・・・いかっ・・ないでっ・・・・』
『どこにも行かねぇーって』(汗
少女にとって彼の存在は大切な人、その逆も同様に。
でも、彼にとっては少女との地位の差は大きかった。
それを知りながらも、彼は少女を想い大切にした。
そのことは少女の父親も知っていること。
彼を拒むことなく快く受け入れた。
それなのに彼は、自分の自信のなさからか少女の年齢が上がるにつれ距離を置いてきた。
だから、傷つけるとわかった上で軽率な行動をした。
その結果、だた少女の心を傷つけただけで、少女の想いは変わらなかった。
『少しは落ち着いたか??』
『・・・・・・』
『・・・冷たくして、悪かった』
『どう、して??』
『お前とは釣り合わねぇーから、突き放そうとした』
『どうして??』
『俺は拾われた身
身分もわからない奴と一緒になって、お前の地位を汚すわけにはいかないから』
少女が幼い頃、滝のような雨が降る中、父親が彼を連れて来た。
家の近くに、名前と一言だけ書かれた手紙とともに置き去りにされた小さな男の子。
それが今の彼だった。
初めは少女の遊び相手、それから兄的な存在に。
いつしかお目付け役として、そして異性としての存在になっていた。
『どうしてっ!?』
『周りから冷たい目で見られて辛くねぇーの??』
『関係ないって・・・前に、言ったよ??どうして、気にするの??』
『お前が、・・・傷つくのを見たくねぇー・・・』
『柊矢は傷つけたのに??』
『・・・・・言われると思った』(汗
少女が"柊矢"と呼ぶ時は、彼が自分自身を飾ていない時にしか呼ばない。
畏まったり、謙ったりとお目付け役として接するときは必ず"丹栄君"と呼ぶ。
彼がそう呼ぶように常々言われていたから。
『柊矢は・・・私が嫌い、なの??』
『嫌うわけ、ねぇーだろ・・・』
『じゃ、どう・・・・思ってるの??』
『それは・・・・』
『それは??』
『よく知ってるだろ??
それよりも・・・・』
『(ビクッ)!?ンッ・・・・・』
『そろそろ、仕事やらないとな』
"好き"と言ってくれるのを待っていた少女は不意に口づけをされる。
彼は、緩んでいたネクタイを締め直すと、少女を椅子に座らせる。
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