この関係の先が見えた









月子に彼氏が出来た。
いつかこうなる事は予想できていたのに、そうなった時の覚悟は出来ていた筈なのに…何故だろう、後悔の念が心を傷め付ける。
しかも相手は自分が信用している誉だ。彼なら月子を泣かせる事もないだろう。包容力もあるし、安心して任せられる…なのに。

「しょうがねぇな…俺も」

ため息を一つ落とせば、窓から偶然にも月子と誉が下校するのが見えた。生徒会室から見下ろしているので、彼らが此方に気が付くことはない。二人がだんだん距離を詰めて、やがては二人きりの時間を共有していくのだと思うと、なんだかやるせない気持ちになる。

「…あれ、一樹ひとり?」

ふと窓から視線を逸らせば、扉を開けた姫が此方に向かって来ているところだった。ぼんやりしていたのを見られただろうか?そんなことを気にしていたら、姫はなにも言わずに窓越しにいる俺の隣に立って外を眺めた。

「ぁー、幸せそうだね」

その一言で、一連の行動を見られていたと悟った。まぁ、気心の知れた姫にならいいのだけど。

「桜士郎がネタにしそうだけどな」
「確かに。後で見守ってやれって釘刺しといてやらなきゃ」

見守ってやれ…、か。今までずっと月子を見守ってきた俺は、これからどうしたらいいのだろう。

「納得、いってない?」
「いや、誉なら安心だしな。アイツも幸せそうだし」
「そう?顔には思いっきり後悔、って書いてるけど?」

ぷにっと頬に人差し指を指される。本当にこいつはなんでもお見通しだ。月子も姫くらい察しが良かったら、俺たちの未来は変わっていたかもしれないのに。

「ねぇ、後悔したりするの…恥ずかしいことじゃないと思う」
「………」
「ゆっくり想い出にしていけば…」
「姫に何がわかるんだ…っ?」

気が付いたら声を荒げてしまっていた。怒るつもりなどなかったのに、むしろ怒りたいのは自分自身だ。姫はなにも悪くない。

「ごめん、お節介だったね」
「いや、俺の方こそ悪ぃ」
「お節介ついでに言うけどさ、一樹はもっと私に頼れば良いと思うよ」
「なんだそれ」

本当にどこまでもお節介。でもそれを鬱陶しく感じさせないのが姫で。姫が俺に触れてくる距離はいつだって心地好かった。

「付き合おうよ、私と」
「…お前なぁ」
「友達だから遠慮するんだよ。別に愛とか無くても良い。一樹が頼れる存在になりたいの」

付き合おうよ、と言った姫の瞳は真剣そのものだった。冗談なら冗談で返せたのに、それすらも許してくれない。
確かに肩書きが変われば接し方も変わるかもしれない、そんな甘い考えが浮かぶ程に俺の心は失恋で傷付いていたらしい。姫の優しさに素直に溺れてしまいたかった。










あの日から、俺と姫は名義上の恋人になった。だからと言って接し方が大きく変わったわけでもなく、手を繋いだりキスをしたりもしない。ただ、共有する時間は格段に増えた。他愛もない話を姫として、たまにノロケる月子と誉に傷付いた心を癒してもらって。姫はいつだって俺を傷付けることはしてこなかった。
そんな恋人ごっこが続いたある日、仕事に疲れてソファで寝転んでいたら、いつの間にか眠ってしまったようで。ゆっくり目を開けると寝る前に被ったはずのない毛布がかかっていた。

「………?」

それに違和感を感じ身体を起こすと、窓辺に姫の姿。こちらに背を向けているから、俺が起きたことには気がついていないらしい。
声を掛けようとしたら、姫の独り言が聞こえてきた。

「私、狡いね…、弱ってるとこ利用して。こんな事しても振り向いて貰えるわけじゃないのに」

それは自分と彼女の事。敢えて俺が畏れて触れなかった核心だった。姫は俺をどう思っているのだろう、そう考えたことはあった。けれど、それを聞いて返ってくる返事が怖かった。それほどに、この関係は心地好すぎた。

「好き…だよっ、でも伝わらなくて良いの。窓からこうして眺めていた貴方の気持ち、私には凄く分かるから…」

俺たちは長い時間を共有してきた。けれど、結局俺たちの時間はあの窓辺で止まったままだ。
だんだんと月子と誉を見つめる事が少なくなった代わりに、姫を見つめている時間が増えた。それはつまりそう言うことだろう。

「…………姫」

見て見ぬふりはもう辞めよう。びっくりして振り向く姫、俺は静かに立ち上がった。














(星詠みなんかに頼らなくても
この未来は見えたんだ)

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優希様リクエストの『月子が誉と付き合いだして、月子の身代わりに姫と付き合ってるうちに想いに気が付く』でした〜!
こんな感じで良いのでしょうか…凄く素敵なシチュだったのに、私が書くとあれれ…な事にorz
リクエストありがとうございました!

20120314




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