休日のティータイム







あまぁいケーキの
魔法にかけられて…









「ほら、遠慮しないで」

いつもの優しい笑顔で錫也が迎い入れてくれた。今の私は、多分見てとれるくらいにガチガチに緊張している。だって大好きな錫也の部屋、錫也がいつも生活しているスペースに足を踏み入れるのは凄くドキドキした。

「お…邪魔します」
「はい、どうぞ」

部屋の中に入ると、背中でかちゃりと鍵がかかる音がした。これで密室に二人っきり。勿論錫也はいきなりがっつくような人じゃないって分かってるんだけど、妙に緊張してしまう。
それはきっと、いつも居る哉太や羊くん、月子ちゃんが周りに居ないから。そう考えると、学校で二人で居られる時間ってほとんどないんだなぁ。

「紅茶でいい?」
「ぇ、あ…うん!いや、お構い無く…っ」
「ぷ…っ、緊張しすぎだって」

クスクス笑いながら簡易キッチンの中に消えていく錫也。何度か遊びには来ているけど、二人っきりは初めて。どこに座ろうかなとウロウロしていたら、棚の上に何枚か写真が飾られているのに気が付いた。

「…………」

錫也と哉太と月子ちゃん…これは入学式のかな?こっちは…もっと小さい頃の。そこには私の知らない3人が笑顔で写っていた。
私と錫也達は、星月学園の天文科で偶然同じになったから知り合えただけで、彼らの仲の良さにはどうしても近付けない。壁を作られているわけではないけど、一緒に過ごした時間が短すぎて埋められない。

「いいなぁ…」

錫也の色んな面を見てきたけど、こうやって写真に収まっている錫也を知り得る事は難しいのだと、私は小さくため息をついた。

「姫…?」
「ぁ、ごめん」

振り返れば、手に紅茶の入ったカップとおやつのケーキをトレーに入れて運んでくる錫也の姿。不思議そうに此方を見ていたので慌てて近くにあったテーブルの前に座った。それを確認した錫也がトレーをテーブルに置く。

「わぁ、美味しそう!」
「姫が好きかなと思って、フルーツケーキを焼いてみたんだ」

私が目を光らせていると、ケーキを切り分けながら錫也が説明してくれる。よく見れば私の好きなフルーツばかり乗っていて、好みをしっかり把握してくれてるんだってキュンとしてしまった。

「さ、召し上がれ」

切り分けたケーキをお皿に載せて勧めてくれるので、私は早速フォークで一口サイズに切り分けて口に運んだ。クリームやらが乗ってのに甘すぎず、フルーツの甘酸っぱさが口いっぱいに広がって味覚を刺激する。

「美味しい…っ!」
「喜んで貰えたなら良かったよ」
「錫也は本当に凄いよね、ケーキ職人みたいっ」

褒めながらケーキをもう一口含むと、それは言い過ぎ、と錫也は苦笑した。でもだって本当に美味しい。今まで食べた中できっと一番っ!

「姫が美味しそうに食べてくれたら作り甲斐があるな」
「錫也のケーキなら幾らでも食べられちゃうよ」
「そうか?…ぁ、ここ。クリームがついてる」

その端整な指が近付いてきて、私の口元に付いていたクリームを掬い上げる。その指はどうするのかな、と思ったら迷いなく錫也の口に消えていった。

「錫也ってそういう恥ずかしいことあっさりしちゃうよね」
「まぁ…手のかかる幼馴染みが二人も居るからな」

幼馴染み…
そう言われて、手にしていたフォークの動きがぴたりと止まる。やっぱり錫也を構成してるのはあの二人なんだよね。分かっていたことだけど、少しだけショックだった。

「…姫?」
「ぁ、うんうん!確かに哉太も月子ちゃんも手が掛かりそう」

不審に思ったかな。慌てて切り返したけど、錫也は少しだけ眉を寄せている。これは錫也が何か考えている時の癖。

「…そう言うことか」

ちらりと私の後ろを見てから、錫也は納得したように口を開いた。そう言うことってどういうことだろう…

「錫也?」
「俺ってさ、頼れるお母さんってよく言われるだろ?」
「…?」
「でもそれって本当の俺じゃないんだ。勿論そう言われるのも嫌いじゃないんだけど」

錫也の言いたいことがよくわからない、そう伝えれば錫也はごめん、と笑った。

「つまり、本当の俺は…」
「――っ?!」

いきなりグッと顔を近づけられて、思わず息を呑んだ。錫也の整った顔がすぐ傍にあって、綺麗な瞳に見つめられて身動きがとれない。

「こうして好きな子が喜ぶ顔だけを見て」

先程クリームを拭った手が、私の頬に触れる。

「好きな子を独り占めして、俺だけのものにしたいって…そう思ってる」

ゆっくり重なった唇からはクリームの甘さが広がった。その甘さからか、唇から伝わる熱なのかわからない感覚が身体を突き抜ける。

「……んっ」
「だから、今までの俺を姫に全て伝える事は出来ないかもしれないけど、これからの…姫を好きでいる俺は姫だけのものだから」

…錫也は気付いてたんだ。私が抱いていた小さな嫉妬に。その事が嬉しくて、でも何だか恥ずかしくて私は俯いてしまった。

「錫也は、かっこよすぎる…」
「はは、好きな子の前ではかっこよくしてたいの。ほら、顔あげて?」

ゆっくり顔を上げれば優しい笑顔の錫也。少しでも貴方に、貴方の優しさに触れていたくて、私はもう一度錫也と口付けを交わした。










(賑やかなお茶会もいいけど
二人きりのお茶会も悪くないかな)

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うい様リクエスト、錫也くんとおうちデートでした〜!
おうちは寮で良かったのでしょうか…
ひたすら甘っ!を目指してみました。
ケーキ作ってくれる彼氏様なんて素敵すぎますよね…っ!
旦那様より奥様にしたいです…笑

20120312




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