想いは秘めたままで
これでよかったんだ… …本当に?
「不知火先輩っ!」
俺を呼ぶ声がする。振り向けば、姫が遠くから走ってこちらに向かってくるのが見えた。
「どうした、そんなに慌てて。なんかあったのか?」
俺の前ではぁはぁと呼吸を整える姫。これじゃあなんの為に急いだのが分からない。必死に言葉を繰り出そうとするのに、声にならないのがもどかしいのか、姫は苦しそうに呼吸を繰り返す顔を更に歪めた。
「先輩は…いいんですか…っ」 「なんの事だ?」 「…月子先輩の、事です」
月子、その名を出されてチクリと胸が痛んだ。 結論から言うと月子に告白された、俺はそれを振った…こんなところだ。 月子の俺への気持ちは、告白される前から分かっていた。分かっていたのに、分からない振りをして傍に居た。
「私、不知火先輩も月子先輩の事好きだと思ってました。だからあんな…」 「あんなに傍に居たんじゃないのかって?悪いが俺はあいつの事をそんな風に見た事はない」
言い切れるのか、と言われれば先程の言葉は嘘になるが、それでも今は月子の事はそんな風には見られない。
「先輩は、弄んでたんですか…」 「思いたいなら思えばいいさ」 「…っ最低です」
姫から吐き出された拒絶の言葉。そうだ、俺は最低なんだ。だからもう…姫も傍に居なくていい。居たら想いが、本音が溢れてしまうから。
「私、不知火先輩の事尊敬してました。いつも皆より少し大人で、破天荒な事ばかり思いついて…かっこいいなって」 「………」 「不知火先輩のする事に口出したりしないつもりでした、でも今回の事はあんまりです!」
ぴしゃりと姫が言い切るのを、俺はどこか遠くで聴いていた。と同時に、本音を吐露してしまえば楽になるのだろうか…という安易な考えも浮かんだ。
「…言うことはそれだけか?」 「っ、失礼します…っ!」
話しても無駄、そう思われたのだろう。姫は俺を一度睨んだ後、くるりと向きを変え、背を向けて去っていった。誰も居ない廊下に、ぽつんと俺だけが残される。
「…ふっ、最低…か…」
自嘲染みた笑みが浮かぶ。月子を大切に想っていないわけじゃない。あいつは妹みたいなもんだった。過去にあんなことを犯してしまった後ろめたさもあったんだろう。その中途半端さが、今回の結果を招いてしまった。
「結局俺には…何一つ守れないんだ」
姫の笑顔も、姫の理想の俺も…何もかも。 人気がない廊下、俺はゆっくりと歩き出した。
想いは秘めたままで
(守れる自信がない俺に 身を委ねるなんて 危険なことはしないで…)
-------------------------------------------------- 雪蓮様のリクエスト、『正義感の強い子だけど不知火に絶大な信頼を置いているヒロインの切甘』でした。 甘…くないですね、すいません。 設定を重視しすぎましたorz リクエストありがとうございました!
20120323
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