分からないから、ただ、笑顔でいる。

君の涙に気付かないふりをすることが
優しさなのか 僕には分からない





「なんだ、またこんなとこにいるのか?」

屋上庭園でベンチに腰かける姫を見つけたのは、もう何度目だろう。また、今日も俯いていた。俺の声が聞こえたのだろう、僅かに肩を震わせて三秒、パッと顔を上げた。

「一樹っ!」

精一杯の彼女の声。どうした、なんて聞くと目尻の拭えていない涙がまた浮かび上がりそうな気がして、俺は見ない振りをして隣に座った。

「相変わらず暇そうだな、お前は」
「一樹だって暇そうじゃない」
「俺は息抜きだよ」

生徒会長様だぞ?と言えば、業務は颯斗に任せてるくせに、と返される。確かに颯斗にも手伝っては貰っているが、俺自身もやれる範囲の事はやっているつもりだ。それより、距離を詰めたことで彼女に顔に近付いてしまった。瞳が潤んでいる。それでも俺はその訳を聞かない。

「一樹、また怪我してる」
「ん?」
「ほらここ、首んとこ」

指を指されたところ、自分では見えないが先程からチクチクと痛みを訴えている気はしていた。しかし日常茶飯事である小さな怪我は、果たしていつ付いたものか検討もつかない。

「また…詠んだんだ」

悲しそうに姫が笑うから、つられて苦笑する。未来を、決まった道を自らの意志で変える代償。その話を姫にしてからというもの、彼女はあざとく傷を指摘してくる。

「まぁな、んでも大した怪我じゃねぇから」

だから、心配すんな、と言おうとしたけれど、言葉が続かなかった。突然姫に抱きしめられて、一瞬呼吸の仕方を忘れる。

「おい…」
「もう、使っちゃダメ。じゃなきゃ私…」
「姫」

姫は気付いていた。俺が詠む未来を、変えようとしている未来を。姫の為なら身体が裂かれても良い、姫が幸せなら、死すら受け入れられる。でもこの想いは、彼女には伝えていない。伝える必要もない。

「そんな顔すんな、俺は大丈夫だから」

姫が辛そうな顔をする、時折涙する理由を俺は知らない。知ってはいけない。重ねてきたものが、ガラガラ音をたてて崩れてしまう気がするからだ。だから、俺は姫の変わりに笑った。






(分からないから、ただ、笑顔でいる。)

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20120204




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