ホワイトデーのお返し〜木之瀬梓の場合〜

*木之瀬梓の場合*




「先輩っ」
「ぁ、梓くん!」

移動教室の途中で、偶然梓くんに出逢った。学年が違うとこんなにも逢う機会が少なくて、その確率にびっくりしてしまう。

「授業お疲れ様です。少し時間ありますか?」
「次の授業は自習だから、ゆっくりでも平気だよ」
「それは良かったです。じゃあ、申し訳ないんですが少し待っていて貰えますか?」

私がコクンと頷くと、梓くんは走って何処かに行ってしまった。どうしたんだろう…
ぼんやりと待っていたら、梓くんが小包を抱えて戻ってきた。

「おかえりなさい」
「遅くなってすいません」

そういう彼は、あんなに走ってきたのに息一つ乱れていない。日頃のロードワークの成果かな、なんて考えていたら抱えていた小包を差し出された。

「バレンタインのお返しです。いつ逢えるか分からなかったので教室に置いていたんです」
「わぁ、ありがとう!…開けてもいい?」
「どうぞ」

梓くんから小包を受け取って、丁寧に包装を解いていけば、中から姿を見せる色とりどりのそれ。

「マカロン!」
「色身が綺麗なので、先輩こういうの好きかなって」
「だいすきだよ、可愛くて美味しそうで…」
「半洋菓子なので、ちょっと心配だったんですけど…今日みたいに雪がちらついてれば大丈夫だと思います」

さすが梓くん。期限なんかもしっかりわかってる。

「ありがとう、大切に食べるね」
「どういたしまして、引き留めてすいませんでした」

そういって梓くんは次の授業に出席するために、先程走った廊下を再び走り出した。







(彼らしいプレゼント、偶然がくれた最高の贈り物)




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