大切なキミへ







「はい、はい…」

俺の隣に腰掛けて、先程から電話の応対をする姫。どこから掛かってきた電話かは分かっているから、俺もそっと見守る。こればかりは俺にもどうしようも出来ないから…だから、姫のすぐ傍で、こうして寄り添ってやる事しか出来ないのが歯痒い。

「ありがとうございます、失礼致します」

相手にジェスチャーなんて見えないだろうに、姫はペコリと頭を下げて、暫くしてから電話が切れたのを確認した。

「…ふう」

その表情からは疲れすら見える。安易に尋ねるのは気が退けたけれど、俺だって気にはなる。

「どうだった?」

恐る恐る尋ねると、姫は俺の瞳を見てから、ニッコリ微笑んだ。それはつまり…

「通知、内定だって!」
「本当か!?良かったな…おめでとう」
「ありがとう…やっと決まったよう」

先程とうって変わり、抱きついてくる姫の瞳には涙が浮かんでいた。俺はそんな姫の頭をよしよしと撫でながら、和が事のように喜びを噛み締めた。

公務員採用の俺は、周りより少し早めに会社から内定を貰ったのだが、このご時世の内定率の悪さを象徴するように、姫はなかなか内定が決まらなかった。
勿論努力をしていない訳じゃない。何度も履歴書を書いていたし、俺もその履歴書の添削や、面接練習に付き合った。
不採用の通知が来る度に、俺に心配を掛けまいと笑顔で振る舞っていたのも知っている。

「これで錫也と並んで歩けるね」
「…仕事が決まらなかったら俺の奥さんになってくれてよかったのに」
「す、錫也?!」
「前にも言っただろ?俺に永久就職してくれていいよ…って」

真っ赤になった姫の顔。でも、嘘じゃないんだ、俺には姫が必要で…お前なしじゃもう生きてはいけないから。

「錫也に甘えてしまうのは簡単だけど、ちゃんと自立してから…その、一緒になりたいの…っ!」
「…姫のそういうところ、好きだな」

堕ちてしまえば楽なのに、決して自分から堕ちてはくれない。だからこんなにも夢中になってしまうのだろうか。と、同時に不安にもなる。
こんな俺に、姫はいつまでも着いてきてくれるだろうか…と。

「春から一緒に社会人頑張ろうね!」

そう言って微笑む姫を見て何も言えなくなる。早く自分だけのものにしたい…そんな黒い考えさえ浮かぶ程に姫が愛しい。

「すずや?」
「ぁ…ごめん、姫の内定祝いに赤飯炊こうか」

不安そうな姫に向かって笑顔を見せると、ぱぁっと姫の表情が明るくなった。こんな可愛らしい顔を、俺の醜い考えで汚したくない。
晩御飯のメニューを口にしながら、俺はそっと醜い心に鍵をかけた。








(…俺も姫の職場に挨拶に行こうかな)
(…え?)
(冗談だよ、でも仕事が終わる頃迎えには行くかな)

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まぁたん、本当に本当におめでとう!
自分の事のように嬉しいのは私です…笑
祝福いっぱいにしたかったのに、独占欲が勝っちゃった…ごめんねorz
内定祝いに私からのプレゼントでした〜!

20120328




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