残念ながら、俺はヒーローになれそうにない







そう、俺はあいつにとっては友達でしかなかった。だから…もうやめよう。





初恋は実らない、よく聞くフレーズだ。まさか自分にも当てはまるとは思わなかったけど。

「……」

屋上庭園でぼんやりと、あの日姫が見ていた桜並木を見ていた。もっとも、今は季節が巡ってしまっているので桜は咲いてはいないのだけれど。
姫はどんな気持ちであの桜を見ていたのだろう。今更知る術もないし、知ったところでどうしようもないのに、俺はまだ姫への気持ちを諦めることが出来なかった。

「哉太」

そう、この俺を呼ぶ声が好きで…

「哉太?」

返事をしなければするまで何度も声を掛けてきて…

「哉太ってば…」

少し泣きそうになりながらも俺の名を何度も呼ぶんだ…

「って、姫…」

振り返れば姫が居た。走ってきたのか息を切らしていて、俺がなかなか振り向かなかったからか、泣きそうな顔をしていた。
その顔があの日、二人の始まりの日を彷彿させて、俺は姫を抱きしめた。

「か、哉太!?」
「んな顔すんなよ…どうしていいか、分からなくなる…」

ぎゅっと抱きしめると、鼻孔を姫の香りがくすぐった。柔らかくて温かい…そんな感触を感じて、俺は慌てて姫から離れた。

「わ、悪ぃ…俺っ」
「哉太の好きな人って誰?」
「…へ?」
「ねぇ、誰?月子ちゃん?それとも私の知らない人?」
「お、落ち着けよ…」

早口で捲し立てられて、押され気味な俺。ごめんと一言呟いた姫は、大きなため息をついた。

「哉太って、私の事好きなんだと思ってた」
「な…なななんでだよ」
「何となく…かな。でも、さっき分かんなくなっちゃった」
「………」
「もし哉太の好きな人が私じゃなかったら…?って思ったら怖くなったの」

なんて自信過剰な女。でも姫はいつもそうだった。俺に対して迷いなくぶつかってくる。

「姫が好きなのは、不知火先輩だろ…」
「一樹会長は憧れだよ。大人の男の人って感じがするもん」
「なんだよそれ…」

姫の返答に俺は思わずため息。つまりは俺の勘違いで取り越し苦労だったってわけか。

「私が好きなのは哉太だよ。ねぇ、哉太は私の事好きじゃないの?」
「おま…、そ、そんな恥ずかしいこと聞くなよ!」
「だって嫌だもん、私はこんなに好きなのに…」

しゅんとして俯いてしまう姫。俺は先程からの展開についていけなくて唖然。
けれど、いつまでもこうしているわけにも行かず、決意を固めた俺は、姫の耳元でそっと囁いた。



『かっこつけさせろ、ばーか…。俺も、お前が好きだ』



姫の顔がぱぁぁっと明るくなって、俺の大好きな笑顔がそこにあった。






(残念ながら、俺はヒーローにはなれそうにない。
けれど、ヒーローよりも強くて弱いお姫様、その笑顔だけは守りたい。
そう、思った。)

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突発的に書きたくなったので、プロット無しで書きなぐりました。
読み直してヒーヒー…
続き物ですが、内容量は通常の短編くらいかな。
とにかく哉太が尻に敷かれるヒロインが書きたくて。
色々と不具合はありますが、書きたいものがかけた私は満足です…笑

20120321




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