身体だけ大きくなった俺なんかより周りはずっと大人
月子への想いは恋だったのだろうか。 姫を気にするようになって、目で追うようになってから、そんな考えの答えはすぐにでた。 あいつは幼馴染み、恋とか愛とかそんなレベルじゃない大切な人。いわば家族のようなものなのだと。
「ぁ、一樹会長はっけーん!」
姫を知りゆくなかで、もうひとつ気が付いたことがある。それは姫が不知火先輩に好意を寄せていること。姫に確認したわけではないけれど、入学式の時から彼女を追う俺が気がつかないわけがない。 姫が不知火先輩に見せる笑顔は、俺や錫也達に見せるどの笑顔でもなかった。
「お前また来たのかー?」 「会長が居たので走ってきちゃいました」 「犬かお前は」
笑いながら姫の頭を撫でる不知火先輩。それは凄く絵になっていて、本当の恋人同士にも見えた。
「七海、こいつ引き取りにこい」 「へ、ぁ…はい」
急に名前を呼ばれて向かえば、姫を前に差し出す不知火先輩。
「酷いです!私は物じゃありません!」 「やかましい、俺は忙しいんだよ。遊んで欲しかったらもっといい女になれ」 「なんですかそれ!」
姫が反抗して不知火先輩に突っ掛かれば、姫はぽんぽんと頭を叩かれて宥められてしまっている。
「七海、あとよろしくな」
気付いてしまった。 不知火先輩が俺の姫への気持ちを知ることに。 と同時に、こんな勇気もなくてただ姫の傍にいるのがやっとの俺を酷く責め立てたい衝動に駆られた。
錫也達と居ても、不知火先輩を前にしても、臆病な俺が出来るのは見守る事だけ。
(身体だけ大きくなった 俺なんかより周りはずっと大人。 俺が守る必要なんてない。)
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