こんなに誰かを愛しいと思ったのは初めてだった
あいつと出逢ったのは まだ桜が散りゆく春だった
星月学園の天文科、そこが俺と姫の始まりだった。姫は月子同様に、この学園では珍しい女生徒。月子が特別扱いされるのが嫌いだ、と言っていたから、姫に対しても異性という意識はあまり持たないように、とは思っていた。
「哉太、ご飯っ!ご飯食べよう!」 「まとわりつくなよお前は…ったく」
ため息を付きながらも席を立てば、姫は本当に嬉しそうに笑って…。その笑顔が眩しくて、俺は姫の頭を小突いた。
「ほら、行くぞ。屋上で錫也と月子、待ってんだろ?」 「うん!錫也のお弁当、今日はなにかな〜?」
ウキウキと足取りも軽く、俺の手を引いて屋上庭園を目指す姫。降れた手が熱くて、でもそれが心地好くて、この温かさを振りほどけない俺は多分姫に対して特別な感情を抱いてる。 それは月子に抱くものと似ているけれど少し違った。
「哉太?」
振り返って覗き込む綺麗な瞳。きっと姫にとって俺は友達で、俺がこんなにも姫に対して、特別な感情を抱いていたとしても、彼女に届くことは無いのだろう。 それでも…
「なんでもねぇ。前見て歩けよ」
俺は姫の額を小突いて、屋上庭園を目指した。
(こんなに誰かを『愛しい』 と思ったのは初めてだった。 正直、初恋だった。)
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