降参します、勝てません
最初から分かっていたよ この勝負の勝敗なんて
「錫也、お待たせっ!」
星月学園から運行するバスに揺られて数十分。降りついた場所は学園から一番近い街で。たまには恋人らしく待ち合わせしようっていう錫也の提案で、私たちは街のベンチで待ち合わせをする事にした。 同じバスになってしまうかな?と思ったけれど、錫也は一つ早いのに乗ってくれたみたいで、こうして待ち合わせてデートをする事に成功したのだ。
「おはよう、晴れて良かったな」
手を差し出しながら笑顔で話し掛ける錫也が眩しい。差し出された手をぎゅっと握って、これが夢じゃないんだって確認をする。うん、夢じゃない。
「どうしたんだ?」 「へ?」 「顔、さっきから百面相してる」
くすくすと笑いながらこちらを見る錫也。私の頬がカァァっと紅くなるのを感じて、ばっと両手で頬を覆った。 顔に出ていたなんて恥ずかしい…
「な、なんでもないっ」 「顔が真っ赤…可愛いな」
頬に手を添えられて軽くキスされる。
「す、錫也っ!」 「ぷっ、余計紅くなった」 「ここっ、外!」
錫也の不意打ちには未だに慣れなくて。人が居ようと居まいとキスをしてくる錫也に、私は翻弄されてばかりだった。
「ごめんごめん、姫が焦る顔が可愛くてつい…」 「もう…本当に恥ずかしいんだからね」 「分かったよ、だから…俺以外にそんな顔見せないで。っていうか見せたくない」
耳元に聞こえる錫也の声と吐息。バクバクという心臓の音が煩くて、身動きがとれない。 火照った顔で立ち尽くしていると、耳元でクスリと笑って錫也は踵を返して歩き始めた。
「ほら、行こうか」
いつもなら待ってくれるのに、今日は手も繋がずに先に行ってしまう。
「ま…待ってよ!」
慌てて追い掛けるのに錫也は待ってくれなくて、私は慌てて彼の背中を追う。 怒らせてしまったのだろうか…そんな不安が脳裏に過った。いつも優しい錫也、我が儘を沢山言ってしまう私の傍に居てくれる人。 なのに今は、人混みに消え入りそうな程不安定な距離だ。 錫也が居なくなってしまう…っ!
「っ、やだ!」
追い掛けてぎゅっと錫也の服の裾を掴むと、びっくりしたように振り返る錫也。
「待ってよ…」
私の声は上擦ってしまっていて…急いだからか呼吸は乱れてしまうしみっともない。でも錫也が居なくなってしまう事の方がずっと嫌だ。
「…ごめんな、謝るから…そんな泣きそうな顔するなよ」 「だって…、錫也先に行っちゃうからっ」
服の裾を掴む力を強くすれば、錫也はふわりと抱きしめてくれた。 あたたかい錫也の体温…凄く落ち着く…
「ちょっと期待してたんだ」 「期待…?」 「あぁ、こうして先を歩いてれば、姫から手を繋いでくれないかなってさ」
こんな人混みだから、はぐれないように握ってくれると思ったんだ、と錫也ははにかみながら告げた。 私の彼氏は策士だ。
「いつも手を握るのは俺からだろ?」 「そうだけど…錫也が居なくなっちゃうかもしれないって怖かった」 「ごめん…俺は姫の傍から居なくなったりしないよ」
そう言うと錫也は私の唇に小さくキスを落とした。さっきはあんなに恥ずかしかったのに、ここが街中で、周りには人が沢山いる事を忘れさせてしまうくらい、そのキスは甘かった。
降参します、勝てません
(気がついたらいつも 貴方のペースに呑まれてる)
---------------------------------------- フォロワさんをイメージして書いてみよう!という一人企画っ! 実はサイト見てますと言われて嬉しくて書いてしまいました…笑 ありがとうございます、これからもあちらでもこちらでもよろしくね〜っ! 可愛くて大好きなまぁたんへ…*
20120320
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