唇から伝染する








教室に入った時から何となく違和感は感じていた。頭がぼーっとする感じがして妙に身体が熱っぽい。錫也くんに具合が悪いなら早退しろと言われたけれど、授業を受けられない程ではなかったので、やんわりと断っておいた。

「具合が悪化したらどうするんだ」
「えへ、どーしよー?」
「お前なぁ…」

移動教室のため、廊下を歩きながら錫也の小言を聞き流す。月子ちゃんや哉太くんは、小さい頃から彼にこうして小言を吐かれてたんだなぁ…お疲れ様、なんて思いながら角を曲がると颯斗くんとばったり出会した。
思わず後退り。

「なんですか、姫さん。顔を見るなり後ろに下がるのはやめてください」

颯斗くんはピシャリと言い張り私との距離を詰めた。目が、目が笑ってません…颯斗くん。
至近距離になったからか、はたまた気付いていたのか、颯斗くんは私のおでこに掌を当てて『熱いですね』と一言漏らした。彼の手はひんやりしていて、火照った皮膚に気持ちのいい冷たさが広がる。

「青空くんからも言ってあげてくれないか?こいつ、朝からずっとこんな調子なんだ」
「錫也くん?余計なことは…」
「分かりました。姫さん、こちらに」
「え、いや…でも授業」
「こちらに」

有無を言わせぬ颯斗くんの目に、私は仕方無く頷いた。逆らったら怖い…と言うよりは、本気で心配しているのが分かったから。じゃあ錫也くんは本気じゃなかったのかと言われたらそうではないけど、颯斗くんのそれは思わず私が不安になってしまいそうなもので。
じゃあ後はよろしく、と言って廊下を去り行く錫也くんを見送って、私達は私の鞄やらを取りに天文科の教室に戻ることにした。

「颯斗くん、授業よかったの?」
「授業より貴女の方が大切です」

私の少し前を歩く颯斗くんの表情は見えない。申し訳無いことをしたなぁと思いながら、渋々付いていく。天文科の教室は生徒が移動していて、普段からは考えられない静寂が漂っていた。

「こういう授業中の学校っていいよね」

なんて言いながら、鞄に教科書やノートをつめていく。後で錫也くんにノートを借りなきゃ、まぁ授業を受けてもしょっちゅうノートを借りているのだけど。

「よし、ごめんね。帰ろっ…」

つめ終えた鞄を持ち、振り向こうとしたら颯斗くんに抱きしめられた。突然のことでびっくりして名前を叫べば、颯斗くんはゆっくりと口を開く。

「東月くんにも…触れられたのですか?」
「、え?」
「額です。熱を測って貰ったのでは?」
「あぁ…」

確かに錫也くんは私の具合が悪いのを知っていたけど、あれは私の顔を見て言ったこと。最も哉太くんなんかは見てて全くわかんないって言ってたし、世話焼きの彼だから見通せた事なんじゃないかな。そう颯斗くんに説明しようとしたのだけど、すっかり勘違いしてしまっている彼に説明するのは至難の技だった。

「あのね、颯斗くん…」
「言い訳は聞きません。姫さんは誰の彼女ですか?」
「ぁ…う、えっと、颯斗くんです」
「彼氏の僕以外が姫さんに触れるなんて…、お仕置きが必要ですね」
「ま…っ!」

お仕置き、という言葉を発する時の颯斗くんは凄くいい表情をする。私にとっては決して良い意味ではないけど、その表情に翻弄されていたら唇を塞がれた。いきなりの事にパニックになっていたら、深いキスになる前に唇を離された。

「あまり、心配させないで下さい」
「ごめん、でも錫也くんにはおでこ触って貰ってないよ?錫也くんには心配して貰ってただけで…」

颯斗くんの顔が一瞬驚いたようになったけど、すぐにまた元の表情に戻る。そして、私の頬に優しく手を当てて一言。

「僕以外の男に、そんな熱で潤んだ瞳を見せていたんですよね?お仕置きします」

あぁ、彼にとっては私が具合が悪いときは何でもお仕置きになってしまうのだ。頭の端でそう考えながら、私は本日二度目のキスを受け入れた。











(冷たかったキミの手
温もりを帯びた唇)

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RTのリクエスト〜!
初颯斗くんでした!
お仕置きって言葉は颯斗くんが一番似合います。
その次は錫也くん…

20120305




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