それだけでは済まない







いつか別れは来るんだって
そんな、悲しい話を聞いた













「一樹、だっこ」

姫が手を広げて可愛くおねだりしてくる。これはきっと計算しているんだろうな、とか、いや案外素でやってるんじゃないか、とか考えていたら早く早くと急かされた。

「どうしたんだ、急に」

ここは生徒会室で、今日は翼も颯斗も来ないと分かっていて…拒む理由は何もないのだがなんとなく引っ掛かった。姫がこういったお願いをするのは珍しくない…けれど、直感的に違和感を感じた。

「なんかね、一樹を遠くに感じて…」

変だよね、と苦笑する姫。こんなに近くいるのに、なんだか遠くに感じるの、と悲しそうに漏らした。

「バカだなお前は」

何が姫をそうさせているのかは分からないが、原因が少しでも緩和されるならと姫を抱きしめた。すっぽりと収まってしまう姫を感じながら、いつになく姫がぎゅっとしがみついてくるものだから、自分も抱きしめる力が強くなる。こんな時、未来ではなく彼女の気持ちが詠めればいいのに…と、ぼんやり考えた。

「安心する…凄く…」
「そうか?」

顔を擦り付けて甘えてくる姫を愛しく感じながらも、きっとこれだけでは不安は拭えないのだと思うと歯がゆい。そっと身体を離せば一瞬不安そうな顔をするから、口を塞いでやった。少しでも、彼女の不安を共有できたら…そんな気持ちも込めて。

「かず…っ、ん…」

触れるだけにしておこうとしたのに、姫の顔を見て引き下がれない事に気が付いた。が、もう遅い。一度口づけただけでは足りなくて、角度を変えて何度も啄む。本当に不安なのは自分なのではないか、そう思うほどに口付けに没頭した。

「…もっ、ばかぁ…」

名残惜しくも唇を離せば悪態付く姫。少しやり過ぎたのか、目がうっすらと揺らいでいて官能的だ。頬も少し赤らいでいて魅せられる。

「…遠く感じるなら、」

埋めてやろうか、と耳元で囁けば更に蒸気する頬。姫の困ったような、恥ずかしそうにする顔が好きだ。つい虐めたくなる、傷付けたいわけではないけれど、加虐の心を駆り立てられてヤバい。

「あ、う…」

オロオロしたままの姫をすっかり忘れていた。スキンシップは大胆なのに、こういうことになると照れを見せるのは素直に可愛らしい。

「冗談だよ、鞄持て。帰るぞ」

あまりからかうと刺激されて収集がつかなくなる。姫からパッと離れ、机の上を適当に片付ける。仕事はあまり進まなかったが、支障をきたすほどではない。明日やればいいかとぼんやり考えていたら、姫が後ろから抱きついてきた。

「こら、姫…」
「埋めて」
「え…」
「一樹で…いっぱいにして…」

顔は見えないけれど、きっと頬は真っ赤で。声が震えているから泣いているのかもしれない。抱きしめられた腕からは緊張が感じられて、こっちまで照れてしまいそうだ。

「…分かった」

後ろから抱きしめてきた姫の腕に手を添え、一言。振り向いて彼女に向き直り、本日何度目か分からない口付けを交わした。











(姫が誘ったんだからな)

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翼の誕生日に私は何を…


20120203




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