きみが誰かと笑うたびに

僕は今日も
キミに溺れる












珍しく遅刻ギリギリの登校。最近寝付きが悪くて、うっかり寝坊してしまった。いつも哉太に注意しているのに自分が寝坊するとは情けない。
教室に入ると、哉太と羊と姫の姿。

「も〜っ!哉太やめてってば!」
「うるせー、うらうらぁ!」

姫の髪をわしゃわしゃと撫でる哉太。羊がつまらなさそうに見ているところから見るに、一度は止めたのだろう。それでも哉太がやめる気配がない、といったところか。

「ほら、姫が嫌がってるじゃん」
「もっと言ってやって羊くん!」

哉太の手を止めて、姫を自分の方に引き寄せる羊。腕をやさしく掴んで、そっと抱き寄せるようにするその仕草に、紳士的なものを感じた。と、同時にモヤモヤ。

「あれ、錫也っ!来てたの?」
「ぉ、お前がギリギリなんて珍しいな」
「ホント、いつもは哉太がギリギリなのに」

姫がこちらに気付いたのを筆頭に、3人の目線が俺に向く。適当にはにかんで挨拶をして、俺は席に向かった。都合よく鳴る始業のベルが今は有り難かった。






「すーずや?」

昼休みに姫が俺の席の前に立ちながら名を呼んだ。平然を装いながらどうした?と聞けば、ちょっと来て、と席を立たされる。

「どこいくんだ?姫、メシまだなんじゃ」
「いいから!」

ぐいぐい自分を引っ張っていく姫。その先に見えるのは…空き教室?昼休みだからか、授業の行われていないそこに姫と入る。

「ここでいいかな」

すっかり姫のペースに乗せられてここまできたが、彼女の意図が全く詠めない。思案していると、姫が話を切り出した。

「朝ね、教室来たとき錫也怒ってたよね」

いきなり痛いところを突かれる。ポーカーフェイスには自信があったんだけどな、どこで気付かれたんだろう。黙っていたら続けて姫が口を開いた。

「なんかあったの?喧嘩したとか?」

怒りの真意までは分からなかったようで、それを知りたいのか姫からの質問。正直に答えればいいのだろうか…嫉妬だって。それってなんて滑稽なんだろう。

「姫は…」
「うん?」
「なんで怒ってたと思う?」

この訊ね方はズルい。自分の口からは言いたくなくて、姫の口を借りるやり方。そう思ったけど、言ってから後には退けなくて姫の返事を待つしかなかった。

「うーん…錫也だけ仲間外れみたいになっちゃったから?」
「遅刻したのは俺のせいだからな」
「そういえば遅刻なんて珍しいよね、」

夜寝られなかったのかな〜?と冗談めいていわれるものだから、柄にもなく姫を引き寄せて抱きしめた。それくらい今の俺には余裕がなかった。気づいて、でも気付かないで…。

「え、ちょ!すずや?」
「寝られなかった、姫のせいで」
「わ、私?」

動揺する姫をギュッと抱きしめて拘束。朝の羊みたいにうまく出来ているだろうか?自分の手の内にある安心感を得ながら、俺は言葉を続けた。

「お前の頭を撫でたり抱きしめたりするのは俺で在りたいんだ。…変、だよな。付き合ってるわけじゃないのにさ」

姫と哉太や羊が仲良くしていると沸き上がる嫉妬心。でもそれを晒け出すのはカッコ悪くて。二人が姫に当たり前に触れるのが羨ましいのに、そんな事ないような素振り見せて。でも、もう限界。

「、ごめんっ!」

衝動だけで突っ走って抱きしめてしまったけど、姫の反応が無くて慌てて身体を離した。どうしよう、嫌な想いをさせてしまったに違いない。

「ホントごめん…、ダメなんだ…俺。抑えようとしても抑えられない」
「抑えなくていいよ」
「え?」

一度離れた身体に再び体温。姫に抱きしめられていると気がつくのに少し時間がかかって、脳がそれを理解したときには、情報処理能力が規格外の出来事にストップした後だった。

「だったら錫也もさっきみたいに抱きしめてくれたらいいから…ね?」

にっこりと笑う姫。えっと、これはつまり脈なし…?
羊や哉太と同じ扱いってこと、でいいのだろうか。

「よし、錫也の怒ってた原因も分かったし、お昼食べよ〜!」

パッと教室から姫が出ていってしまって、俺は苦笑するしかなかった。なんてやつを好きになってしまったんだろう。天性の小悪魔、そう呼ぶしかない彼女に俺は呆れるくらいにおぼれてしまっている。
姫に続き教室から出れば、宮地くんを見つけたのか手を振りながら駆けていく姫の姿。受難はまだまだ続きそうだ。













(溢れ続ける嫉妬心
キミが気付くのは、いつ?)

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黒あめしゃんリク錫也〜!
小悪魔ヒロインちゃん…


お題提供:確かに恋だった
20120222




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