物申すっ!






年に一回、
精一杯の勇気を私に与えてくれる日。
どうか気付いてください
私はこんなに貴方を…













「はい、これ」

姫はそう言うと錫也に、手に持っていたものを差し出した。錫也は困惑の表情を浮かべる。

「姫…これ、」

そこまで言って次の言葉に詰まった。それを読み取ったように姫が「違うの」とだけ返す。その違うのは何に繋がっているのかが分からず、ごめんと言うしかなかった。

「今日ね、バレンタインでしょ?」
「…そうだな」

2月14日。世の男性の殆どは今日を喜びの日と捉えているだろう。好意を寄せる女性から貰えるのなら尚更、貰えずとも義理と称されて受けとるそれは、甘いものが嫌いでなければ素直に嬉しい。しかし錫也は違った。彼は手作りは愚か、義理と分かっていても絶対にチョコレートを受け取らない。唯一、月子が買ってきたものだけは受け取るが、それは姫も分かっているはずだ。

「チョコレートは受け取って貰えないと思って…」

錫也の考えを詠むように、姫が手を再び差し出す。その手にある一輪の花。

「日本ではチョコレートに愛情を込めて渡すけど、外国じゃ感謝を込めて花をプレゼントするんでしょ?」

羊くんに聞いたの、と付け足す姫。確かに外国の文化で花をプレゼントする習慣はある。単純に感謝の意なら受け取ってもいいだろう。錫也は安易な考えで姫の手から花を受け取った。

「薔薇、これも羊に聞いたのか?」
「え、あぁ…ううん。私が選んだの…」

薔薇をバレンタインに男性から女性に贈るものだとは教わらなかったのか、という考えの後、すぐに違う考えが浮かんだ。

「姫っ!これ、」
「あぁぁ、月子が呼んでるから行くねっ」

言葉を紡ぐ前に踵を返して駈けて行く姫。その場に錫也と薔薇が取り残された。彼女が選んだ花、単純に好きな花だったのかもしれないが、先程の言動と自分の読みが合致してはっきりしてしまった。錫也は手の中の花を見つめた後、姫が去った方を再び見やる。

「あいつ…」

気づかなかったらどうするつもりなのだろう。否、自分なら気付いてくれるという確信があったのかもしれない。

「言い逃げなんて、ズルすぎ…」

しかし、本当に狡いのはどちらだろう。彼女は友達、そう割り切っていたのは誰だろう。受け取った薔薇に、彼女の精一杯に心が突き動かされた。



『あなたが好きです』




自分の迂闊さと安易に受け取った事を悔いた。このまま逃げ続けることは赦されない。
季節の変わり目は、もうそこまで来ていた。






(気付いてしまった自分の気持ち、どうすればいい?)

---------------
バレンタイン企画っ!
あとりんへ、錫也夢でした〜っ!
…糖度が足りないごめん。゚(゚´ω`゚)゚。

20120201




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -