チョコレート戦争
大好きな君たちに 僕からの贈り物っ!
チョコレート戦争
「羊くん、はいっ」
天文科の教室で談笑していると、姫が傍にやってきた。手には可愛いラッピングをした紙袋。羊は、哉太と錫也と囲む机の椅子から立ち上がり、彼女を迎え入れるように手を広げる。
「Merci!姫から貰えるなんて…僕、夢を見ているみたいだよ」 「もう…相変わらず羊くんは大袈裟なんだから」
姫はクスクス笑って羊に紙袋を渡そうとした。それを哉太が手と目で制止する。
「おい、待て」 「それって…チョコ、だよな?」
錫也も哉太の隣に立ち、びっくりした顔を浮かべている。そう、今日はバレンタイン。恐らく姫のプレゼントはチョコレート。しかもラッピングを見るに手作り。
「哉太も錫也も邪魔しないでくれる?僕は姫からチョコを受けとりたいんだけど」 「羊、お前は黙ってろ。姫、どういうことだ?」 「羊だけ特別…、お前らまさか!」 「わー!違う違うっ!付き合ってない!」
錫也の詠みを力一杯否定する。それに対して、僕はそうなっても良いけどと羊が付け足す物だから、姫は更に焦りながら顔をブンブンと振った。
「どうして?僕は姫の事大好きなのに」 「羊くん…っ、イジワルしないで…」 「ごめんごめん、姫があんまりにも可愛いからついイジワルしちゃった」 「それで、そろそろ説明してくれないか?」
錫也が満面の笑みで止めにはいる。気になって仕方がない上に、なんというか恋人同士のような、しかも羊と姫のイチャイチャを見せられて、非常に機嫌が悪そうなそれ。
「ぁ、えっと…二人は要らないんでしょ?」 「は?」
姫の言葉に錫也と哉太の声が重なる。バレンタインの話なんて姫としたことがあっだろうか。思い当たる節がない。
「羊に聞いたの。錫也と哉太は月子ちゃんのしか貰わないから、私からのは受け取らないよって」 「羊…」 「お前…」
姫の話を聞きながら、錫也と哉太は羊を睨む。羊は涼しい顔でその視線を流した。姫はその視線の間でオロオロしながら羊を見つめる。
「僕、嘘は言ってないと思うけど?今までもそうだったんでしょ?」 「確かに月子のしか受け取らなかったよ、それは認める」 「でも姫は別だろ?しかも手作り…」
哉太は未だに姫の手で揺れるそれをチラリと見る。月子には手作りを禁じているが、姫の作るお菓子は凄く凄く美味しいのだ。そう思っているのは錫也も同じで、自分の腕には自信はあるが、他人の作ったモノは別。しかも姫の作ったモノ。受け取りを拒否するわけにはいかない。
「哉太と錫也は月子のを貰えばいいよ。まぁ、僕も月子に貰うけど。とにかく姫のは渡さない」 「お前そういうの何て言うか知ってるか!抜け駆けっていうんだぞ?!」 「まさかそんなに音に持ってるとはな…」 「あの…け、喧嘩しないで…?」
姫が仲裁に入るが、三人には聞こえていないのか口論は続く。自分のせいで喧嘩を始めてしまった三人。いつもなら止める側の錫也も、珍しく参戦しているので止める人がいない。
「もうっ!哉太も錫也もしつこい!」 「お前なぁ…っ」 「僕が姫に作って貰ったんだから、それを奪うのはおかしいよ!」 「羊だけ貰うのに納得がいかない」
「喧嘩しないでっ!」
強めの口調で言えば、はたと振り返る彼ら。急に注目されてしまって次の言葉がなかなか出なくて煩わしい。そう考えてきたら目に涙まで浮かんできてもう…馬鹿。
「泣かないで、姫」 「悪かった!お前の気持ちを無視して…」 「泣くなよ!…どうしたらいいか分かんなくなる」 「、ごめ…、あの、ね」
姫は溢れる涙を堪えながら、鞄から包みを二つ取り出した。羊に上げるはずだった紙袋の中身と同じモノ。
「羊くんには受け取らないって聞いてたけど、いつもみたいに食べてほしくて…その、」
作ったの…と最後は消え入りそうな声。特別な日のお菓子だなんて思ってくれなくてもいい。いつもみたいに笑顔になって欲しい、その思いで作ったそれ。三人はそっと姫から包みを受け取った。
「喧嘩してごめんね、僕も大人気なかったよ」 「大事に食べるな、ありがとう」 「ったく、最初から言えよな…サンキュ」
後から月子が教室に入ってきて、姫ちゃんを泣かせたの誰!と三人が問い詰められ、姫が再びオロオロするのは、また別の話…
(つ、月子ちゃんにも!はい!) (わぁ、ありがとう!) (月子のが一番凝ってるような…) (愛です、愛っ)
---------------------------- バレンタイン企画っ! 春組になってますか…不安です;ω;
20120201
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