私だけを見ていて







問題集の最後の問題の答えを合わせる。回答と一致、うん、いい感じ。

「よし、おしまいっ」

時計を見ると、一樹の生徒会の仕事が終わるまでまだ少しある。一応受験生なので、もう少し勉強しようかとも考えたけど、前の日に勉強したから今日はいいや、と明日の甘えになってしまうかなと思ってやめた。
参考書を片付けながら、これからどうしようかと思案する。

「折角早く終わったんだから、早めに生徒会室に行こうかな、月子ちゃん達にも逢いたいし!」

手早く荷物を纏め、私は図書室を後にした。






生徒会室に近付くと、いつもの軽快な爆発音が聞こえる。うんうん、今日もやってるやってる。

「お邪魔しまーす」
「くぉら翼ぁぁ!」
「ぬぁー!ぬいぬいが怒ったのだぁ!」

扉を開けると一樹と翼くんが追いかけっこをしていた。さっきの爆発音で予想はついていたけれど、ほんと毎度毎度飽きないなと思っていたら、月子ちゃんと目があった。

「姫先輩!お久し振りです!」
「久し振り!月子ちゃん、巻き込まれてない?」

大丈夫です、と笑顔でこちらに近付いてくる彼女。相変わらず可愛いなぁと思いながら、一樹と翼くんに向き直る。追いかけっこが終わって、翼くんが一樹のお仕置きを受けているところだった。そろそろ颯斗くんがミニ黒板出しそうだなぁって思っていたら、月子ちゃんに耳栓を渡された。始まります、って。






「珍しいな。姫がこんなに早くくるなんて」

黒板キーキーの刑を受けた一樹が、違和感があるのか時折耳にを気にしながら私に尋ねる。

「たまにはね。でも来る度になんで帰るのが遅くなるのかを目の当たりにさせられて…」
「ばかっ、あれは翼がだな」
「もっかい黒板キーキーしてもらう?」
「ごめんなさい」

素直に謝るのが可笑しくて笑ったら、からかうなって怒られた。これ以上邪魔してると今度は私まで颯斗くんに怒られそうだったから、大人しく備え付けのソファに向かう。持っていた鞄やらを置いていたら一樹に声をかけられた。

「姫、珈琲頼む」
「なんで私が、」
「月子の茶は不味いんだよ。姫がいるなら姫に入れて貰いたいからだ」

ちょっと一樹会長酷いです!と月子ちゃんが怒っているけれど、確かに彼女のお茶は不味い。たまに出して貰うけれど、どうやったらこんなに不味くなるのかが不思議になるくらい不味い。

「はいはい、淹れてきます」

月子ちゃんが可哀想になって、珈琲を淹れに向かう。後ろで一樹と月子ちゃんがギャーギャー言っているのを颯斗くんが止めに入った。仲良くって羨ましいなぁって、生徒会室に来ると思ってしまうのは、きっと自分にはここまでわいわい盛り上がれる仲間が居ないから。
確かに知人は沢山いるけれど、仲間とはまた違った感じ。だから生徒会メンバーが素直に羨ましい。所謂無いものねだりなのだけど。

「っ、きゃ!!」

そんなことを考えながらコップを出していたら、手に力が入っていなかったのか、コップが流し台に落ちて割れてしまった。ガシャンという、食器特有の音が嫌に大きく響く。

「っ大丈夫か!?」

そう言って飛んできてくれたのは一樹で。あんまりにも血相抱えてくるものだから、びっくりして立ち竦んでしまった。一樹は私の手を掴み、ジッと見つめる。

「姫先輩、指!怪我してますっ」

後から月子ちゃんが入ってきて、私の指を見るなり驚いた声をあげた。びっくりして気付かなかったけど、コップの破片が飛んだのか小さな切り傷。

「結構さっくりいったんじゃないのか?」
「言われてみれば痛い…」
「ば、絆創膏…っ!ぁ、消毒…!」
「月子さん、落ち着いてください」

颯斗くんがオロオロする月子ちゃんを宥めるように、制服から絆創膏を取り出した。なんて用意周到な…

「翼くんの発明品のために用意していたのですが、役に立ちそうですね」
「颯斗、すまない。こいつの手当ては俺がしておくから、お前たちは仕事に戻ってくれ」

絆創膏を受け取りながら一樹が話すのを、私はぼんやりと眺めていた。






「ごめん、一樹…」
「それは何に対しての謝罪だ?」

傷口の手当てをしてもらって、割れた破片の片付けまでしてもらって。申し訳なさでいっぱいになって出た一言。いろんなところにかかり過ぎたごめんに、私は言葉を返せなかった。

「いや、責めてるわけじゃないんだ。手、痛むだろ…ごめんな」
「なんで一樹が謝るの」
「俺が淹れてくれなんて言わなきゃ、コップを割ることもなかった。すまない」

本当に申し訳なさそうに謝る一樹。違う、一樹が悪いんじゃなくて…。うまく言葉を紡げなくて、私は一樹にぎゅっと抱きついた。一樹も抱きしめ返してくれる。体温が温かい。

「…コップ、ごめん…」
「コップなんてまた買えばいいんだ、気にすんなよ。それよりお前の怪我の方がよっぽど…」
「ちょっと切れただけだから。一樹が落ち込む方が嫌」

なんだかごめんなさい合戦みたいになってきて、収集がつかなくなるんじゃないかってヒヤヒヤしてきた。一樹が私の身にかかる危険に敏感なのは知っていたのに、防げなかった自分が情けない。

「羨ましかったっていうか、嫉妬…かな」

ポツリと出た本心。急にそんな事を言ったものだから、一樹はきょとんとしてこちらを見ている。

「生徒会の仲の良さに妬いてたっていうか…それでボーッとしてたらコップ落としたの」
「……」
「だから、私の不注意」

本心を伝えたら気が楽になって、でも恥ずかしさも込み上げてきて、私は抱きしめる力を強くした。

「お前は本当に可愛いな」
「うるさいな…」
「確かに生徒会は家族みたいなもんだ。でも、お前は仲間とかじゃなくて彼女だ。世界で一番大切な存在なんだぞ?」

優しく頭を撫でられて、優しい言葉を掛けられて。彼の優しさに触れて、自分の仲にある黒いものに気づいてしまった。仲間が羨ましい、確かにそれもあったんだと思う。けれど本心は…













(溢れ続ける嫉妬心。
貴方を失いたくなくて、そっと胸に秘める)

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ヒロインは生徒会には入れません。
完璧なのは私の目指してるものとは少し違うので…


20120211




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